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駅に降り立った彼は、3,4番線ホームの南端にまで歩いて行った。ラッシュを過ぎてもこの駅は幾分人が多い。
ホームの端で一人カメラを構え出す彼。路線が複雑怪奇に入り組んでおり、向かって左側が奈良線、右側が橿原線となる。いつ見ても飽きない、いやすばらしい。善紀にしてみれば、まさに地元の誇りともいえる駅だった。
しばらくすると、橿原線よりやってきた特急ビスタEXに出会った。中間車両が2階建てというユニークな造りである。彼は忘れずに取り収めた。それから程なく、3番線に京都国際会館行きの列車が到着した。京都市営地下鉄に直通することのある唯一の車両である。独特のフロントマスクが彼の心を刺激させてくれるのだ。
振り向きざま、素早くシャッターを切る善紀。パシッ。小奇麗な写真に目を留めた。いいねぇ。数々の写真にうっとりとしていた彼。
「松井さん?」「ん?」笑顔のまま、視線を前へと向けた善紀。大学時代の部活の後輩、浅野麻美が一人で立っていた。善紀の心臓が危なっかしげに揺れた。どうして?
夏に映えるカッターTシャツに膝上程度の青いフレアスカート、桃色の手提げバッグという居出立ちだった。善紀は彼女をまじまじと見た。社員証の入ったえんじのストラップを身に着け、challengeの文字が印象的なバッジに名札と胸に留めていた。
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