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どれくらいの時間が経ったのか、わずかな眠気を感じながら、帰るかどうかを考えていると、ドアの開く音がした。
誰かが教室に入ってきたみたいだ。私は机に顔を伏したまま、しばらく様子を伺った。
とっくにクラスの生徒は帰ったものだと思い込んでいたけど、そうではなかったみたいだ。
帰り支度をしているのだろう、斜め後ろの方で音がする。
誰かわからないけど、その子が帰ったら私も帰ろうと思っていると、その子は私の席に近づいてきた。
すると前の席に座り、私の机に肘をついたようだ。視線を感じる。
私はその子の意図がわからず、顔をあげるかどうか迷っていると、頭の上に何かが置かれた。
「糖分、処方しときますね。」
男子生徒の声だった。私はわけがわからず、「はぁ?」と言いながら顔を上げてしまった。頭に置かれたものが床に落ちた。チョコレートのようだった。
「いや、糖分、処方しときますね。」
「…言ってる意味わかんないんですけど。」
さも当然のような顔でそいつは同じことを繰り返した。そいつは同じクラスの男子生徒のだけど、話したことはほとんどない。接点なんてほとんどないそいつからの、訳がわからない行動に、ついさきほどまでの思考がとんでしまった。
「よくわからんけど、大抵のことは糖分で解決できるから、おすそわけしただけなんだけど。…あ、チョコが嫌なら飴にしようか?」
「意味わかんない、何なの、ちょっと気持ち悪いんですけど。」
「あ、すんません。」
思わず、気持ち悪いとか言ってしまった。そいつはちょっと傷ついたような顔をしてた。少し申し訳ない気持ちになったが、やっぱりちょっと気持ち悪いと感じてしまったので、訂正はしない。
「ていうか、わたしと接点そんなにないでしょ?なんで声かけてきたの?」
「あ、しゃべっていいの?なんか、おしゃべりしたそうな背中してたから、ついつい声をかけてみました。」
「わたしが?どこをみてそうなったの?放っておいて帰るところでしょ、普通。」
「まぁ、そうしてもよかったんだけど、なんとなくだよ、なんとなく。」
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