三月、恋は溶け

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三月、恋は溶け

 僕らの町は、山間にある。  それでも、冬になってもあまり雪は積もらなかった。  僕は幼い頃、田舎に住んでいた。  コンビニも何もない、買い物に行くにも週末に車で何十分とかけて行くような、本当にそこは何にもないど田舎だった。今みたいにネットもない時代だ。  父と母、三つ上の姉、それから祖父母と一緒に住んでいた。叔父も叔母も近所に家を構えており、あたり一帯が祖父の土地だった。父たち兄弟は仲が良く、玄関にはたまに畑で作った作物のおすそ分けが置いてある。なんならほかほかの味噌煮の入った丼が置かれていることもあった。  うちは母親が外から嫁に来たからそんなことはないが、母が車で玄関にかぎをかけたことがなかったぐらいだ。というのは、周りに知らない人はいないほど閉鎖的だったし、そもそもだいたいの家が遠い親戚だったりする、そんな田舎だったからだった。     
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