三月、恋は溶け

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 私鉄の駅まで徒歩で40分、それも本数は30分に一本だけ。もちろん無人駅で、最近ようやく自動改札が導入されたことが町内のニュースとして広く知れ渡ったようだ。電話越しに母からそう聞いた。小学校までは歩いて50分、山道を越えて、また向こうの山の上にある学校にたどり着く。  まわりを囲むのは田んぼや山だけ、そんな田舎なくせに平地のせいかあまり雪は積もらない。あったとしても、夜のうちに降って、朝早くの農耕車の轍だけが残っている程度だった。  だから、珍しく雪が積もった日の1時間目は雪合戦となるのが決まりだった。頻繁に雪が降らないのに何故その決まりを知っているのかというと、父の代からそうだったと聞いたからだ。ちなみに合戦とは言うものの、ルールもチームもなく学年入り乱れてとりあえず雪玉を投げ合うだけだ。教師も一緒になって行うから、ちょっと苦手な教師を合戦の途中の的にしたりする。それがとてつもなく楽しかった。    冬の日は朝から寒くて、母親が編んでくれた青色の新しい手袋と、何故か高学年だけ許される耳あてを当てて学校に通った。濡れないように履いた長靴ががつがつと砂利道に音を立てる。     
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