それは抗争のありふれた世界のこと

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「……って感じの殺伐した抗争の(ハナシ)なんだ。さらに、これから時事ネタを沢山盛り込んで、最終的には『地獄巡り』に匹敵する大ネタに仕上げようと思っているんだ」  偶々、卒論の参考文献を漁りに落研へ寄った私は、厄介な先輩に捕まって創作落語を一席聞かされる羽目になったのだった。  座布団に正座したまま、キラキラと少年のように目を輝かせて熱く語る先輩を前に、私は小さくため息を吐く。 「はぁ……。まーた、下らない小噺捻るのに夢中になっちゃって……、ちゃんと単位取ってるんですか?」 「うん、まぁ……、ボチボチ?」 「……いい加減にしないと、テッちゃんに言い付けますよ」 「そ、それだけは勘弁!」  畳に額を着くほど頭を下げて見せる先輩だが、チラチラこちらの様子を窺っているのはバレバレだ。 「もう……、しょうがないなぁ」  ガバッと上体を起こした先輩の顔は、満面に悪戯っぽい笑みを湛えていた。 「ありがとう、キヨちゃん!んじゃさ、タイトル考えてくんない?映画タイトルを(もじ)ったのだと箔が付くと思うんだよねぇ?」 (ははぁ、それが今回の『問題』ってワケね)  私、岩佐清海は今こそ丸くなったが、以前は捻りのないサゲの創作落語が許せないがために、先読みしてサゲを言って台無しにするので顰蹙(ひんしゅく)を買い、『咲黄泉死亭(さきよみして)馬喰(ばくろ)』という大変不名誉な名を付けられ、煙たがれていた。  しかし唯一、1歳年上の先輩(私が4年生となった現在までずっと2年生のまま、立場は2学年下の後輩になっているが)は私の読みを面白がり、新しい創作落語の『ネタおろし』の度、先ず私の前で演って見せるのだった。 「……先輩“それ”、洋画ホラータイトルを元にしてると特に格好良くありません?」 「お!いいね、いいねぇ」
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