3人が本棚に入れています
本棚に追加
「難しい顔してますね、陽輝先輩。このエルシアでよければ、ご相談に乗りますよ?」
「そうかい?でも大丈夫だよ。ちょっと思い付いたことがあっただけなんだ。」
「思い付いたこと…ですか?」
「上手くいく保証はゼロだけど先輩がしていたことをそっくりそのまま体現してみようと思うんだ。」
「昨日先輩の目を丸くした〈ソウルスキルの無詠唱発動〉…ですか?」
「相変わらずエルシアは僕の考えを当てるのが上手いね。」
「えへへっ、でも…それってかなり負担がかかるんじゃ?」
「僕はこの大会で〈答え〉を出したいんだ。馬宙と戦って、今の自分に絶対的に欠けている点を洗い出すんだ。」
陽輝は腰の剣の柄を強く握った。その手は彼にも分からない何かによって震えていた。
しかし、側つきの剣士エルシアには何となく察しがついていた。
彼には超えたい人がすぐ側にいながら親友という壁に阻まれて、動けないでウジウジしている自分がいることをエルシアは誰よりも理解していた。
現に彼女も一剣士として仲間はたくさんいるが、友と思った瞬間に剣技をぶつけるのを躊躇い勝ちになることがあるため、陽輝の気持ちが痛いほど分かるのだった。
「あの…!ひ、一人になりたければ、その…」
「僕を気遣ってくれたつもりかい?僕は本当に大丈夫だよ。もう少し経てばそのうち迷いも吹っ切れると思うから。」
「先輩…無理しないで下さいね。一昨日も馬宙先輩は倒れたんでしょ?私、陽輝先輩に馬宙先輩の二の舞になって欲しくないんです!」
陽輝は何を思ったのか、腰から勢いよく剣を引き抜き、エルシアの方に向けた。
「ひゃっ!…先輩、どうしたんですか?」
「馬宙は馬宙、僕は僕なんだ…彼は僕の剣技を知っている以上、僕独自の剣技で彼に打ち勝たなきゃいけないんだよ!そこに倒れる倒れないなんて関係ない!」
陽輝の瞳は光こそ発してはないがいつも以上に赤く輝いていた。その瞳には馬宙に対する気持ちが溢れ出していた。
「…ごめんなさい、私…怖くなって、つい。」
スッ…
「先輩、何を…ひゃっ!」
陽輝は気でも狂ったのか、剣を腰に納めるとエルシアに抱きついた。
「…僕の方こそごめんね、君に心配させて。その心配は、僕が万が一倒れたときにとっておいてくれないか。今は目の前のことに集中したいんだ。」
最初のコメントを投稿しよう!