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4「選択」
時刻が18時を回った。部活動を終えた学生達が続々と帰り始める。真平だけでなく学生達が何人もロータリーの松の木の下に集まり始めた。待ち合わせにもよく使われるからだ。
「真平君、誰を待っているの?」
同じ中学で同級生の長野臨が話し掛けて来た。一緒に話している所などなるべく見られたくない飯田の後に話し掛けてくれた女子だから、普段はそんなに可愛いと思えないのに、この時だけは妙に長野が可愛かった。自分より背が高い身長160㎝も、ハーフアップにした黒髪も、ミニスカートの下から伸びる生足も、妙に魅力的だった。
「まさか長野さんなの?」
長野は少しだけ笑って、
「なんでさん付けなの?」
慌てる自分を必死に抑えながら、
「ああ……、そうだったな」
「まさか長野さんって何が……?」
(あっ、違うのか……でも話したくないなぁ)
「えっ……違うの?」
オドオドした飯田を嫌っていた癖に動揺を隠せない真平。不審に思った長野は、
「何、どうしたの?」
「言えないよ……」
「誰を待っているの?」
「それは……」
真平は本当のことは言えなかった。本当のことを言って長野が後日他の女子達に言えば、それだけで笑いものにされてしまうかもしれない。本当のことを言わないで長野のご機嫌も損ねないと云う童貞の高校2年生には難儀な課題だった。
「言っちゃいけないんだよね」
「どうして?」
真平は中学時代、長野と一緒だったことから、屁理屈を創り上げた。
「ほら? 同じ中学に竹原君って居たじゃん」
「居たね」
「あいつさぁ、好きな女の子とか平気で言いふらしてたじゃん」
長野も竹原の未熟ぶりを最低な男子だと感じた過去を思い出して、
「あっ、うん。そうだったね」
長野の表情が少しだけ歪むと、同意してくれたと察した真平は、
「でも、やっぱり言われた女子としては堪らないじゃん。学校中で噂になってさぁ、長野も同じ思いするの嫌だろ?」
「まぁ、そうだね」
「だから、まぁ、あんましベチャクチャ口の軽い奴にはなりたくないんだよね」
「そうなんだ……」
「うん……」
ありがたいことに長野はこれ以上追及しなかった。
「でも、もう遅いよ。校門も閉まっちゃうし」
「そうだよね……」
長野は少しだけ微笑みを強めて、
「ねぇ、一緒に帰ろう?」
真平は『選択』を突き付けられた。
長野と一緒に帰るか、まだ見ぬ『るるる』を待つか。
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