隣の君は……

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「悪かったって。でも、いいことしたんなら、説教もいつもより緩くなったんじゃないの」  腹筋が爆笑の名残で痙攣している翔は、強面の睨みを流して本題に入った。 「普通はそうなんだろうけど、俺の場合は逆効果だったんだよ」 「ははぁ、なるへそ。腐った蜜柑だと目の敵にしている生徒が、わざわざ電話をもらうほど感謝されてんだから、そりゃあ先生様でもむかっ腹になるわな」 「そういうこと。まあ、気持ちはわかるから、多少の説教なら婆ちゃんの気持ちに免じて聞き流してやれたんだよ。なのに、あの野郎」  せっかく落ち着いた怒りが、亮司の顔面に再び浮き上がる。 「亮司をそこまで怒らせるって、よっぽどだな。なんて言ったわけ」  翔に興味津々の眼差しを向けられると、亮司はため息を吐き出して、またちょっと冷静になった。 「そうだよな。先公にしてみりゃ、いつもの憂さ晴らしなわけで、別にムキになることもなかったんだよな」 「ちょっと、ここで止めるとか言わないでよ。気になって、夜も眠れないからネトゲしちゃうじゃん」 「それ、お前の標準だろうが。まあ、いいけど。言われたんだよ、俺みたいな奴が、切り裂き魔だったりするんだって」 「え、それって、最近流行りの女子高生連続切り裂き魔のこと言ってんの?」 「たぶんな」 「えー、人助けした生徒にそれ言うか」 「だろう。しかも、女ばっか狙うような腐った野郎だってんだから、マジでムカっときちゃってよ。うっかり本気で睨んだら、向こうで勝手に怯んで解放されたけど」 「そりゃ、相当びびっただろうね。俺だって、亮司君が本気になったらちびっちゃうもん」 「嘘をつけ、嘘を」 「まー、まー。ろくでもない教師の失態を許してやるのが、善良な高校生の役割りってもんだろ」 「わーってるよ。今日はバイトだったよな。付き合わせて悪かったな」 「いやいや、面白い話が聞けて楽しかったよ」 「そりゃ、よかった」 「じゃあな、あんま気にすんなよ」
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