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亮司は翔と校門で別れて、こっそり停めてあるバイトを拾って駅前に向かった。話してスッキリしたとはいえ、むしゃくしゃした気持ちはくすぶったままなので、ゲーセンでも寄って気分転換しようと思ったのだ。
「おっ」
駅の駐輪場を出てゲーセンに足を向けると、細い路地に黄色いものがちらついた。昔に絵の具箱で見かけたレモンイエローだ。それがあまりに鮮やかだったから、気まぐれに任せて追いかけてみる。
入り組んだ裏手に入ると、目的の黄色はすぐに見つかった。それは女子高生のコートで、さらさらな長い黒髪がなびいていた。
「何してんの」
と、声をかけたのは、しょうもない男の性で顔が見たかったからに他ならない。
「え?」
驚いて振り向いた女子高生は特別美少女というわけではなかったが、第一印象としては可愛いかもといった感じだ。
「ここ、あんま治安よくないよ」
不審がられないよう親切な忠告をしてみた後で、亮司は自分の面構えを思い出して反応を待ってみる。怯えるようなら、両手を上げて後ろ足で引き下がる心づもりをしながら。
「うん、知ってる。でも、ここ近道だし、人を待ってるから」
意外なことに、普通のリアクションをされた。
「あー、そう。でも、最近物騒だし、他の場所にしたら。その、待ち合わせ相手には連絡してさ」
親切な高校生を続行しながらも、待ってるのは彼氏かなとか余計なことを考えてしまう。
「切り裂き魔とか?」
「そ、ヤバイでしょ」
「でも、スマホ、家に置いてきちゃったから」
「そりゃ、やらかしちゃったな」
「ふふ、そだね。やらかしちゃった」
何気なく笑った顔が子どもみたいに純粋な印象で、腹の底で黒くくすぶっていた亮司は無性に残酷な狂気が沸き上がってきた。このまっさらで下ろし立てみたいなレモンイエローを泥々に塗り潰したくて堪らなくなる。
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