引っ越してきたのは。

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穏やかな日差しが世界を照らす昼下がり、ピンポーンとインターホンが鳴った。 お、荷物届いたかな。 このボロアパートのインターホンには、モニターなんて高価なものは付いていないので、誰が来たか確かめるには扉を開けなければならない。 扉を開けると、青い従業着に身を包んだ男性……ではなく、小柄な女性がそこに立っていた。知らない顔だ。 「どうも初めまして、隣に越してきた鈴木と申します」 丁寧な口調で鈴木と名乗った女性は、そう言いながら白いタオルを差し出してきた。 「あ、ああ。ご丁寧にどうもありがとうございます」 てっきり宅配便かと思っていた俺は、どこかぎこちない返事をしてしまった。ぎこちない返事の理由はそれだけでなく、鈴木さんの容姿にもあった。端的に言ってしまえば、かなりの美人さんだ。だがそれ以上に、俺の心を動かしたのは鈴木さんが着ているティーシャツだ。白い無地の半袖に、大きく「人」とだけ書いてあるティーシャツ。見ればわかるよ。どこで買ったんですかそんなの。 「お、私は熊田と申します。何か困った事があったら気軽に聞いてください」 精一杯の笑顔を作り、差し出されていたタオルを受け取りながらそう返した。 「はい、よろしくお願いします」 では挨拶回りがまだ残っているので、失礼します。と続けた鈴木さんの背中を見送り、扉を閉めた。 ……美人さんだったな。大学生っぽいけど、一人暮らしかな。上京してきたんだろうか。あのティーシャツ、どこで買えるんだろう。 そんな考えが頭の中で渦巻いたが、いらない心配だなと振り切った。 その日の晩の事だった。 インターホンが鳴った。はいはい、と声に出しながら扉を開けると、昼頃に挨拶に来た鈴木さんの姿が目に入った。 「あぁ、鈴木さんでしたか、どうかしました?」 俺がそう言うと、昼頃の丁寧な口調とは変わって、鈴木さんはどこか申し訳なさそうな口調でこう切り出した。 「あの、カレーを作りすぎてしまったので……」 鈴木さんの手にはカレーが入ったタッパー容器が見えた。 おっ、これはまさか。そんな期待をしている自分がいた。 だが鈴木さんは、こんな風に言葉を続けた。 「ご飯を分けて頂けないでしょうか」 ……とんでもない隣人が来た。この時、はっきりとそう感じた。
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