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「ありがとうございましたー」
袴田隼斗が左手でドアを開け、お客様を送り出します。
女性のお客様は恥ずかし気に顔を赤く染め、長身の隼斗を上目遣いに見上げながらドアを押さえて待つ隼斗の脇を抜けます。
「また、いらしてくださいね」
僅かに頭を傾け、媚びるような優しい笑みで言われ、女性はペコペコと腰を折りながら店を後にします
手に提げた紙袋にはウェディングドレスが入っているのですが……まあ、気にしないようにしましょう。
隼斗はなおも笑顔のまま手を振っています、女性の姿は私からは見えません、でも振り返ったりもしていないのではないでしょうか、それでもそれが彼の流儀なのでしょう。
その姿が見えなくなったと思われる頃、店内に戻ってきました。
「さてと」
言うと、先程女性を撮影したデジカメをUSBケーブルでPCに繋ぎます。顔は写しませんが、私が作ったドレスを着た姿を撮ったものが入っています。
ここひと月ほどで、彼は随分器用になったと思います。
彼は右腕がありません。
二カ月前です、肘にできた腫瘍の為に肘より先を切断したのです。
隼斗と私は専門学校時代の同級生です。
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