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彼はコーヒーミルを取り出し二杯分の豆を入れ、右の二の腕で本体を挟んで、左手で取っ手を回し始めます。
左手をただぐるぐる回す、それすら、苦労のある操作の様です。
初めの頃はブツブツと文句を言ってました、「左手、動けよ」と……私が代わろうかと言ったのですが、お前は働けと邪険にされてしまいました。
とにかくこだわりがあるようです。
挽きたてが飲みたいなら、ミル付きのコーヒーメーカーを買おうかと言ったのですが、今あるものが壊れたらでいいと断られてしまいました。
ゆっくり動くミルの音が心地よく聞こえてきます。
引いた豆ををコーヒーメーカーにセットし、今度はお湯が落ちる音が響き始めます。
それらを聞きながら、私は針を動かしていました。
なんとも優雅な午後です。
やがて隼斗が入ったと知らせてくれたので、私は店の奥にあるソファーに向かいます。
それだけは武骨にもマグカップに入ったコーヒーが、テーブルの上で芳醇な香りを放っています。
「いただきます」
手を合わせてからカップを手にしました。香りを嗅いでから一口含みます。
ほろ苦さの中に感じる甘さは香りのお蔭でしょう。濃厚な苦みだと感じましたが、濃いだけではないと判ります、のちはすっきりとしたうまみが喉の奥に残りました。
「──ああ、美味しいですね」
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