皆にとっての幸せが俺にとっての幸せとは限らない

2/10
2人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
俺は毎日戦っている いつか こいつに殺されるんじゃないか という恐怖と 「たいせーそろそろ起きよーぜ」 平然と声をかけてくるお前の 「今日の昼飯カレー作ったんだよ。一緒に食お…」 肩に乗せてくる手を 軽く振り払った 「うるさい。食いたい時に行くから。先行ってて」 「あ…ごめん…分かった。先行ってんね」 「…チッ」 突然だけど聴いてほしい 俺は幸せが苦手だ いや…苦手なんてレベルじゃない 拗れに拗らせた十数年の年月が 「幸せ=恐怖」とインプットしてる程度には屈折している 事の始まりは… 小学生の頃だ 『すげー泰成!』 『泰成マジイケメンだわ!w」 その日はたまたま調子が良くて、テストで100点をとり体育のリレーで一位を取った。クラスの一番になったんだ。 『皆も泰成くんを見習って頑張ろうね!』 先生、友人、両親 皆に褒められて誇らしかった 周りからの羨望の眼差しを向けられ 認められて 「幸せ」だと思った それと同時に襲ってきたのは 漠然とした不安だった 一番は俺には不釣り合いだ 一番になった後は この地位を維持しなくてはならないという焦燥 舞台から引きずり降ろされる恐怖と周囲からの暗黙の期待と 次の結果へのプレッシャー この場所を妬む第三者からの 敵意を含む視線 荷が重いんだ 『本当に凄いな!泰成!』 重すぎて押し潰されてしまいそうだ いつまで続くか分からない「幸せ」なんて 最初からない方がマシだ 俺は 失う恐怖に耐えきれず いつしか幸せを感じることを 意図的に避けるようになっていた 意気地のない弱虫なことくらい 自分でもわかってる 一番は俺の数字じゃない 「泰成…もう三杯くらい食ってるけど、どういう胃袋してんの…?」 「こっち見んな。飯が不味くなる」 「え…ゴメン…そんな睨まなくても…」 怖い こいつの与えてくる幸せに 押しつぶされそうになるんだ 何も俺は別に 不幸になりたいわけじゃない 三番とか四番とか 中途半端な数字のところが気楽なんだ 人間一人一人に 幸せを蓄える上限があるとすれば 俺の場合はその上限が 周りと比べて極端に低いんだと思う あっという間に キャパオーバーを迎え 零れ落ちた「幸せ」に溺れて 死にそうになる そんな俺に幸福感を押し付けてくるのは 上京して同棲を始め三年目となる 清水勇気だ 俺は勇気のことが好きだ
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!