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 誰もいない化粧室のドレッサー前に陣取り、髪を指ですく。だらしなく落ちたきりの口角から、重い溜め息がこぼれ落ちた。  デザートが来るまでは、バカなやり取りをしながら楽しく過ごせていたのに。確かにしつこかったかもしれないけど、何もあんな風に睨まなくたって。 「どうやって機嫌取ろ…」  整えたばかりの髪をぐしゃぐしゃにしそうになった。手を握り固め、脇に下ろす。  昔から陽平は怒りを長く引きずるタイプじゃないし、ご機嫌を取らなければならない相手じゃない。けど、今日は大事な話をするつもりだから、それを成功させるためにも挽回しないと。  カッコいいモデルポーズでも決めて気分を上げようかと、ポケットに手を突っ込んだら右手の指に何かが絡まった―――ああ、出掛けにアクセサリーボックスからシルバーネックレスを引っ掴んだのだっけ。結局つけるのを忘れていた。 「あれ…」  チェーンが複雑に絡み合っていて、思うように解けない。ちょうど、私とあいつの、よくわからない関係みたいに。  私たちは単なる友達だったはず。そこにあるのは裏表のない友情だけで、「男」「女」なんて違いすら気に留めなかった。愚かしく、何より愛おしい時代の思い出を何度もほじくり返しては、飽きもせずに同じ話の、同じところで笑う―――そんな時間が何より心地よかった。お互いに違う相手と結ばれて、別々の家庭を作ったとしてもこの関係は崩れない。そう、根拠のない確信を持っていた。  でも、私たち以外の4人がグループの外でそれぞれ特別な相手を見つけて立て続けに結婚すると、その確信は次第に形を変え始めた。既婚者とは本当に予定が合わず、2人で会うことが増えたせいで、ある変化が起きたのだ。  “カップルシートにご案内しますね”  “カップル割を適用させていただきます”  私たちは行く先々で「カップル」として扱われた。結婚適齢期の男女が連れ立っていたら、そう認識するのが普通だろう。最初こそ多少気恥ずかしかったけど次第に慣れてきて、最近は「嬉しい」とすら思うのだ。  私は、陽平の彼女扱いされても嫌じゃない。これが友達以上、恋人未満というやつかも―――そう気付いた時、なら「恋人になってみてもいいんじゃないか」と思った。今までそんな可能性、1ミクロも思い浮かべたことはなかったのだけど。
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