First half

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「アフォガートでございます」  店員がデザートを運んでくる。濃厚ミルクアイスにバターコーヒーをかけて食べるアフォガート。都内の人気イタリアン「リベラーレ」の名物メニューだ。  柔らかい日差しと風が心地よい新緑の時期に、オープンテラスの席でコース料理を食べる。最高の贅沢だ。 「待ってました~! これ目当てで来たんだから」 「アホがアホガード食う、ってか」  テーブルを挟んで向かいにいる男が、くあ、と欠伸をする。  ヨレヨレのグレーパーカー、折り返しにホコリが溜まっていそうなジーンズ、土で汚れているスニーカー、極めつけにぼさぼさ頭のこいつは10年来の友人・飛田 陽平(ひだ ようへい)だ。高校からの付き合いだけど、ファッションセンスに全く進歩がない。高校生の時と今とで陽平を取り替えても誰も気付かないと思う。29にもなって本当にすごい。 「アホアホ言うな! それに『アフォガート』だから!」 「へーへー」  イタリア語で「溺れた」という意味だ、なんて知識をひけらかしてやりたかった。けど、そう教えたところで心底どうでもよさそうな反応をされるだけ。  口をつぐみ、小さなカップに入っているバターコーヒーを傾けた。ミルクアイスがみるみるコーヒー色に染まり、しぼんでいく。 「そんなん溶けるじゃねえか」 「これでいいの」 「コーヒーもアイスも好きだけど、わざわざ一緒くたにしなくてよくね? せっかく、それぞれうまいんだから」  陽平は頬杖をつき、口先を尖らせた。思った通り興味なさそう。そうやって、いつも死んだ魚みたいな目をしているからモテないんだ。昔はもっとイキイキしていたはず、少なくともご飯の時間は。  体育以外の授業はずっと机に突っ伏して寝てるくせに、昼になるとひとりでに起きてきて人の弁当からミートボールや卵焼きを断りもなく取っていくようなヤツだった。高校の間、陽平とはずっと同じクラスだったから、お互いにいい意味で遠慮がなかった。  大学生、社会人になってからも陽平は、同じ高校出身の仲良しグループで出かける度においしい店を探してきては案内してくれたし、食べ歩きスポットもたくさん教えてくれた。色々な料理を少しずつ分けて楽しみたくて、みんなで違う物を頼み、好きなように箸でつついた。男女3人ずつの集まりだけど、誰とでもはんぶんこ、間接キスなんて朝飯前だった。
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