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コツ…コツ…コツ
洞窟に足を踏み入れた瞬間から、足音が空洞内に響き渡る。
奥に向かっていくにつれて外の光は徐々に弱まっていき、だんだん辺りは暗闇へと変わっていく。
外の暖かさも、奪われていくようにひんやりとした空気が響を包み込んだ。
「さむっ…やっぱり洞窟内は冷えるのか」
両腕を軽くさすりながら慎重に奥へと足を運んでいく。
洞窟に訪れたのは、いつ以来だろうか。
小学生の時に家族旅行で東北にある鍾乳洞を観光したぐらいだ。
まさかここで洞窟の中に入ることになるとは思わなかった。
「そういえば俺、何でここにいるんだろう?目覚めてから変なウサギやらでっかい狼に絡まれて追いかけられてたから考える暇はなかったけど…あの時は確かにトラックに轢かれてたよな」
先程より状況が落ち着いてきたからなのか、改めて自分が何故見知らぬところにいるのか冷静に考えることができた。
脳裏に浮かんでくるのは、自分の目の前に迫ってくるトラックと腕の中にいる白い犬の感触。
そして、あまりはっきりと覚えてはいないが僅かに背中に違和感を感じた。
きっと背中にトラックがぶつかったのだろう。
自分が覚えている記憶は、残念だがここまでだ。
轢かれた直後の記憶など全くなかった。
「俺…やっぱり死んだのか?体は見たところ何ともないし、さっきまで走れてたから怪我はないはず。寒さも感じてるからゾンビにはなってないな」
自分の手のひらを見たり頬に手を当てたりするが、手のひらはしっかり赤みがあり頬にも体温がある。
何故傷だらけではないのか分からなかったが、きっとここは死後の世界なのだろう。
そうだったら諦めがつく。
だが、響には一番気がかりな事があった。
「晴也…今頃どうしてるかな?」
ここに来る前に一緒にいた晴也のことだ。
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