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「じゃ、そろそろ俺は帰るよ。」
響は帰ろうと鳴実に背を向ける。
「あ、響。ちょっと待て。」
帰ろうとする彼を鳴実は引き止めた。
「何?」
響は再び振り返る。
すると、鳴実は机の引き出しから1枚の紙を取り出す。
その紙を机の上に置き、響に見せるように差し出した。
「あ、これ…。」
紙を見た響は目を丸くする。
白い紙には「進路調査票」と大きく書かれていた。
先程、ホームルームの時間を利用して渡された物だ。
しかし、項目には何も書かれていない。
「お前、進路調査票に何も書かなかったみたいだな。」
「…うん。」
鳴実の問いに響は小さく頷く。
その反応に鳴実は溜息をする。
「お前はまだ高校2年生になったばかりで、将来何になりたいか分からない気持ちは理解できる。だがな、急かすつもりはないが自分がやりたいことを早めに決めておいた方が長く準備ができるんだ。今のうちによく考えておけ。」
真っ直ぐ彼を見つめる。
鳴実は、響に人生たった一度っきりの中で後悔を残す気持ちをして欲しくなかった。
「やりたいことって何だろう…。」
「え?」
響の呟きを聞き取れず、キョトンとする。
「いや、何でもない。ありがとう、井東先生。」
「あっ、おい!」
響は鳴実に背を向け、駆け足で職員室を出て行った。
残された彼は呆然と職員室のドアを見つめる。
「響、お前はまだ自分を抑えているのか…?」
動物と話したことを嬉しそうに喋っていた幼い響の姿が脳裏を過った。
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