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「はあ…はあ…。」
職員室を出た後、響は昇降口に辿りつく。
部活の最中なのか、辺りにはほとんど人はいなかった。
「お、思わず逃げたみたいになっちゃったけど…絶対、兄さんは俺は逃げたと思ってるな…。」
いや、逃げたみたいではなく逃げたのだ。
兄の現実的な言葉から耳を塞ぎたかったからかもしれない。
「はあ…俺は逃げてばかりだな。」
自分の惨めさを改めて痛感する。
能力のことだってそうだ。
幼い頃の出来事から動物の声に耳を傾けることをやめたのだ。
例え、助けを求める声でさえも。
『自分がやりたいことを早めに決めておいた方が長く準備ができるんだ。今のうちによく考えておけ。』
不意に再び兄の言葉が脳裏に浮かぶ。
「俺のやりたいことって見つかるのか…?」
自分のやりたいことを見つけろと言われても、正直分からない。
今は高校2年生。将来を決めるのはまだ時間がかかりそうだ。
「さて、帰るか…。」
昇降口にある自分の靴箱の扉を開こうとした。
その時。
「あっ!!いた!!響~っ!!」
突然、背後から叫び声が響いた。
その反動で響の肩はビクッと跳ねさせる。
声の主は廊下を駆け、響の所へやって来た。
「春也!お前帰ったんじゃないのか?」
目の前で息切れをしている春也に響は訊ねる。
「帰ってねーよ!一緒に帰ろうと思ってたら、お前の教室行ったらお前がいねーし!連絡もつかねーから校舎中探し回っちまったよ!」
春也に言われ、響はスマホを取り出す。
画面には春也からの電話が5件あった。
「ごめん、ちょっと職員室で兄さんと話してたんだ。」
「え、鳴実さんに?」
響は訊ねる春也に頷いた。
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