第3話 知らない風景

2/8
107人が本棚に入れています
本棚に追加
/46ページ
―何だ…頭がぼーっとする。 響の意識は朦朧としていた。 視界は濃霧の中に入ったようにハッキリ見えない。 自分の身に一体何が起きたのか。 何故、体が横たわっているのか。 どんな状況なのか把握できなかった。 ―俺、このまま死ぬのか? 自分に死期が迫っているように感じた。 体も思うように動かなく、声も出ない。 ―ああ、そうか。俺はもう…。 響は悟った。 自分は死ぬ運命だと。 全てを諦めようと、意識を手放そうとする。 その時だった。 『おい、あんなところに人の子が倒れてるぞ!』 『ん?…お、本当だ。』 頭上から声が降って来たのだ。 ―誰…だ? 声の主たちを確認しようと、力を振り絞って瞼を開こうとした。 2つの声は響に近づいてきたのか、声量が大きくなる。 『ん?こいつまだ生きてるみたいだ。』 『え、マジか。…あ、本当だ。生きてる。』 謎の声たちは響の顔を覗き、生存を確認する。 『兄者、こいつどうするの?人間なんて遠くでしか見たことないし…。』 のんびりとした声が兄者と呼ばれる声に訊ねる。 ―…こいつら兄弟か? 僅かだが、響の視界は明るくなる。 その瞼の間からは、獣のような足が二つ見えた。 ―人間…じゃない? 響は視界に入った足を見て自分の目を疑う。 しかし、どう見ても人間の足には見えなかった。 どちらかと言うと、ウサギのような足だ。 『待て、弟よ。そう焦るでない。』 兄者と思わしき声は弟と呼ばれる声を落ち着かせようとする。 右にいる茶色の足は兄者、左にいるオレンジの足は弟の声だろう。 『いや、俺落ち着いてるけど…。』 『確かに、人間を間近で見てお前も落ち着かないだろう。だが、こういう時こそ落ち着きが大事だ。』 『落ち着いてない奴にそう言われても、説得力がないよ。』 弟の声は冷静に兄者の声にツッコむ。 兄者の声の足は微かに震えていた。 ―何だ、このやり取り…。 2人の話を聞いていた響は若干呆れていた。
/46ページ

最初のコメントを投稿しよう!