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数年後の4月の春、響は高校2年生へと成長していた。
「おはよう!」
「おはよ~。」
春休みを終え、1学年上がった生徒達は通学路を歩きながら久々に会う友人に挨拶をする。
今日は幸いなことに天気にも恵まれ、通学路を飾る桜が彼らを出迎えていた。
まさに新学期日和だ。
その中、響は一冊の本を片手で開き読みながら歩いていた。
「『一本の桜の木の下に彼女はやってくる…。すると、足元から黒い猫が―――』」
「よう!ひーびき!」
突然後ろから誰かがぶつかって来る。
響はその反動でよろけながらも、何とか持ちこたえることができた。
「いった……何するんだよ春也。」
振り向くと、彼の前には明るく爽やかな笑みを浮かべた男子高校生が立っていた。
「あー悪い悪い。ちょっと力加減ができなかったわ。」
焦げ茶色の髪を掻き上げながら、申し訳なさそうに響に謝る。
彼の名は磯村春也。
響とは小学生の頃からの幼馴染である。
2人は止めていた足を再び並んで前へ踏み出した。
「てか、朝からよく本なんて読めるな。俺なんか3秒ももたねえよ。」
「本を読むのは好きなんだ。周りを気にしないで済むし。」
響は春也を横目で見ながら微笑む。
「そ、そうか…で、今何読んでいるんだ?」
彼が持ってる本を春也は訊ねた。
「「桜の下に黒猫」っていう小説。病気の少女が病院から抜け出して、桜の木の下で言葉を話せる黒猫と出会うんだ。」
響は手に持っている小説の表紙を春也に見せるように捲る。
表紙には、桃色の桜の木の下に黒猫がちょこんと座っている可愛らしいイラストが描かれていた。
「確かに「桜の下に黒猫」だな。」
「まあ、表紙だけ見たらそう思うか。」
「えっ、何?仕掛けとかあるのか?」
「それを言ったらネタバレになるから言わない。」
「ちえっ、何だよそりゃあ。」
口を尖らす春也を見て響は苦笑いを漏らす。
もうすぐ学校に着くこともあり、彼は小説を鞄に静かに仕舞った。
「今度、春也でも読める絵本を紹介するよ。」
「絵本って…お前、俺のこと馬鹿にしてないか?」
「いや、そんなことないよ。」
「そんなことあるから顔が笑ってるじゃねえか!」
春也は響の黒緑色の髪をくしゃっと乱暴に撫でる。
響は「痛い痛い!」と笑いながら止めるよう乞う。
彼らがじゃれ合う姿は、まるで兄弟のようだった。
「にゃー。」
すると、足元から声がしたのに気づいた春也は響の頭から手を離す。
そして、自分の足元に視線を落とした。
「どうした、春也?」
響は彼の視線を辿る。
そこには、一匹の小さな黒猫がちょこんと座っていたのだ。
黒猫は「にゃー」と一鳴きしながらこちらを見上げている。
「うわっ!すげえ可愛い!どこから来たんだ、お前?」
春也は黒猫を抱き上げ撫で始めた。
黒猫は「にゃーにゃー」と言葉をしゃべるかのように鳴いている。
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