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となりのお姉さん
春の微睡み。春休みということも相まって今年年長になる遼斗は布団の中で夢の中の冒険を楽しんでいた。
内容は昨夜遅くまでやっていたRPGの世界に入り込んで己がモンスターを退治していくというもの。モンスターを倒す爽快感から中々抜け出せずに布団の中に潜り込んでいた。
その夢を打ち砕いたのは母の声。
「遼斗!起きなさい!」
その叫びにも似た声に遼斗の目ははっきりと開く。
「なんだよ。いいところだったのに……」
母の声はしたが、寝室に姿はない。あまりまで遅くまで起きないものだから叫ばれたのだと遼斗は思ったが、寝室の外から響いてくる声でそれは違うと知る。
「遼斗!お隣のお姉さんに挨拶しなさい!」
遼斗はそこでわたわたと寝室を出て玄関へと走って行った。
昨夜、母から空き家であった隣に引っ越してくる人がいるという話は聞いていた。ちゃんと挨拶できる?と言われたものだから、できる!と宣言したものだから挨拶をしない訳にはいかないのだ。
パジャマ姿のまま、遼斗が玄関に向かうとそこには遼斗が息を飲むほどに綺麗な女性がいた。
ゆっくりと母の横についたが、透けるような白い肌や光を浴びて輝く黒髪、恐ろしく深い黒を見せる瞳に見とれてしまい声を発せなかった。
「遼斗、挨拶は?」
母が遼斗の背中をぽんと叩く。
口をパクパクさせる遼斗だったが、遼斗より先に女性は声をかけてきた。
「はじめまして遼斗くん。私、彩香って言います。これからよろしくね」
彩香は、すっと遼斗に右手を差し出す。
「よ、よろしくお願いします!」
遼斗は勢いをつけてそう言って彩香の手を握る。
華奢な彩香の手は、柔らかくて壊れてしまいそうだと遼斗は思った。
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