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「あらー、花が躍っているようね。素敵。文子さんらしいわ」  先生が言う。「わたし、らしい、ですか……?」 「のびのびと。花材の色合いが映えるような器選びと生け方。とっても素敵だわ」  自分の生けた作品をもう一度よく見てみる。  カーキ色に茶褐色のラインが入った秋らしいシックなデザインの陶器花器。のびのびと中央の空間を占める菊。その周囲を彩るナナカマドとほおづき。バランスをとるように秋の香りを添えるススキ。  ひとつひとつのパーツを見ると、それはどれも先生だったり、教科書や家元やほかの先生だったり、先人たちの誰かから盗んで学んだの技術を取り入れただけ。ちょうどあの日のラナンキュラスの入れ方みたいに。  でも、確かにこれは、私の作品だった。これは、先生の作品でも、教科書の作品でもない。  いま、この一瞬を生ける。それがいけばななのだ。この枝は、この花は、どう見せたら一番輝ける? どんな花器にどう入れたら、花や枝葉と器と机と背景とがすべて合わさって、ひとつの作品になる? それを考えたのは先生でも教科書でもなくて、私自身だ。
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