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私はいま、この日のために探して買ってきた少し口の広い鉄花器を前に、ラナンキュラスを持つ左手と花鋏を持つ右手を震わせている。
ミモザとデルフィニウムとモンステラは綺麗に入れられた。大丈夫。あとは、このラナンキュラスさえ上手く行けば。
ぐにゃり。と嫌な感覚が花を持つ震えた左手にはしる。ラナンキュラスが隣の人にぶつかったのだ。
「あ、ごめんなさい」
「あ、いえ……」
明らかに隣の人のエリアまではみ出していたこっちが悪い。だけど……茎がぽっきり折れてしまったラナンキュラスを前に、私は呆然としていた。
一旦バケツに戻す。私の作品のラナンキュラスは7本。この折れたのはもう使えない。6本じゃバランスが悪いから、使えるのは5本。思考が働いたのはそこまでだった。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
頭が真っ白になる。息が苦しくなる。途方に暮れる私をよそに時間はどんどん過ぎていく。生け込み終了時刻の10分前になり、片付けを始めるようにという係員のアナウンスが入る。
泣き出しそうになる私の頭に、直前のレッスンで先生のデモンストレーション作品の映像が過った――
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