3月14日の夜

4/13
798人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「龍ヶ崎様、本日もご来店ありがとうございます」 いつも通り、深くお辞儀をしてからお洒落なブルーのグラスに入ったレモン水を目の前へと置く。 「……颯斗、大丈夫か?何だか、顔色……悪いぞ?」 目の前の男は、いつも掛けているサングラスを少しだけずらし、上目遣いで俺を見つめる。 「だ、大丈夫です」 穏やかでない内心とは裏腹に、無理矢理笑顔を作りその場を振る舞う。 「演技、下手クソだな……」 そう言うと、世界中の女性を全て虜にしてしまうセクシーすぎる流し目で、俺のことを見つめた。 「そりゃ、俺……俳優じゃないですし……。駆け引きとか、できない……ですし」 目の前の世の中百戦錬磨である男の言葉を、つい真に受けてしまい、悔しさから真剣に答えてしまう。 同時に、今すぐこの場所から立ち去りたい衝動にも駆られたが、店長からの厳しい教えを思い出し、プロ根性からその場でグッと踏み止まる。 「まぁ、いい。今日は、久々に早く仕事が終わったから家まで送って行くよ」 まさかの龍ヶ崎からの発言に、“やっぱり!”と誕生日のことを確信し、小さく息を呑んだ。 ……どうしよう。 やっぱり、龍ヶ崎は俺からの誕生日プレゼントを楽しみにしてたりするのだろうか…… それとも、俺から「好きだ」とか言わせたいのだろうか。 俺は、無意識に龍ヶ崎のことを色々と想像して、余計胃が痛くなってしまう。 実際には、そんな素振りすら目の前の男は見せていないのに、珍しく冷静さに欠けた俺にはそんな様子すら見えていなかったのだった――。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!