3月14日の夜

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「高遠君、龍ヶ崎様からのご指名入ったよ!」 珍しく、店長と同じ時間にシフトが入っていた30代前半の小柄で若々しい副店長がキッチンへと声を掛ける。 「ほら、お呼びだ。折角だから、連れて帰ってもらえよ」 「……店長がそう言うと、何故だか“お持ち帰り”の意味が含まれてるように聞こえるんですけど……」 大きく肩で溜息を付いた俺は、相変わらずニヤニヤしている店長を苦々しく見つめた。 「それだけ言えるなら、大丈夫そうだな。ま、無理だけはするな。ダメそうだったら、戻って来なさい」 そう言うと真剣な表情で俺の背中を優しく叩き、龍ヶ崎への元へと送り出してくれた。 「高遠君、大丈夫かなぁ……」 俺と入れ違いでキッチンへと戻ってきた副店長は、眉を八の字にし、心配そうに俺の後ろ姿を見つめていた。 「ま、あれ(、、)は十中八九、龍ヶ崎様の誕生日が絡んでるんだろうな。あの方は、今日誕生日だからな」 店長は、細身の割には逞しい腕を組んで俺を見つめる。 「あ!そっか。今日、龍ヶ崎様誕生日ですもんね。そう言えば、厨房スタッフにサプライズのケーキオーダーすら入っていなかったですが、そもそも高遠君は誕生日に気が付いていますかね?」 「颯斗に限って、常連の方の情報収集してない訳ないだろ?颯斗にとって、龍ヶ崎様は上客だからいつものサプライズじゃなくて、もっと別のものを用意してるんだろ?心配ないさ!」 このカフェでは、上客である常連の誕生日や記念日に、担当スタッフから囁かなプレゼントが贈られるのが常なのだ。 「でも、顔色悪かったですよ……?」 副店長は、相変わらず心配そうな面持ちで、最年少バイトの行く末を見つめていたのだった。
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