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「元々僕は出来損ないだった。
父親の思うような成績優秀で、兄や弟のように生徒会長に選出されるような学生ではなかった。
いわゆる不良と言われる仲間とつるんでいるような人間だった」
叔父は何が言いたいのか、初めはよく解らなかった。
こんな昔話をするために戻ってきたワケではないだろう。
「それでも!
人間としては親父なんかよりずっとマシな生き方をしてきた自負がある」
急に怒り始めて、どうしていいのか判らない。
「兄貴は・・・
兄貴と由美さんは親父とおふくろに引き裂かれた。
酷い手を使って。
人の人生を何だと思っているのか。
子供だろうと一人の人間だ。思い通りになるはずはない。
だから兄貴はこの家が、この街がイヤになって・・・
海洋生物の研究所。
それが兄貴の終の仕事になった。
人間を相手にしない仕事だ。
もう誰も信じられないと、誰も知らない所に自ら向かった。
元々学生の頃はそのような研究をしていて、短期で体験留学みたいなこともしていたみたいだから、それを伝手に自分で探して行ったのだと思う。
それを知ったのは兄貴が行ってから2,3年してからの事だったし、
親父たちが連れ戻すというようなことを画策していた話を聞いて、この僕はとうとう切れた。
子離れしてやれ、どれだけ子供を苦しませるつもりなんだって。
それでも、向こうで一緒に仕事をする仲間と心を通わせて結婚したと聞いた時には嬉しかった。
誰にも干渉されない世界で幸せを掴むことができたんだなって。
でも、その一方で・・・」
叔父は言葉を選んでいた。
詰まらせているという感じだったのかもしれない。
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