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その他、お店の権利とか遺産の相続の話とか、いろいろと聞かされたけれど、
全く頭に入って来なくて、お父さんが代わりに聞いてくれていた。
今、そんな事は考えられないよ・・・
また独りになったような孤独感に苛まれて、心は昔のように寒く悲しい。
悲しいのに、悲しむことができない。
お母さんの亡がらに縋り、声を上げて泣き喚けたら・・・
そんな想いも微かに感じてはいたのだけれど。
控室っていうのかな、準備された小さな部屋は、外の痺れるような寒さも忘れるほど暖かかった。
でも、お母さんはドライアイスに囲まれて、寒そう・・・
そっと・・・
お母さんの頬に手のひらを添えてみる。
ハッと手を離すほど冷たい。
こんなに冷たくて、こんなに小さくて・・・
病院で綺麗にしてもらってはいるけれど、きっとお母さんならこのままではイヤだと思うの。
「お母さん、私、お化粧してもいい?
教えてもらったでしょ?
上手にできると思うの。
だから、私にお化粧、させてね?」
病院から持ってきたお母さんの荷物の中から、いつも使っていたお化粧ポーチを探し出す。
これはね・・・
『ママと私、お揃いで買ったの。使ってくれる?』
すごく安物。
だけど、ビーズでお花の模様を施してあって可愛かったの。
私のが赤でお母さんにプレゼントしたのが紺色。
お母さんがそれまで使っていたメイクポーチは角がすり減ってて、もう何十年も使っていた感じだったから、プレゼントしたの。
『ユキちゃんとお揃いなんて、嬉しい!ありがとう!』
思った以上に喜んでくれて、
そんな素直に喜んでくれる顔を見たのは、人生の中でそうなかったから、
戸惑いと喜びと、
何とも表現できない嬉しさは、今でもなにも褪せずに覚えてる。
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