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「なんだと?」
そう言いながらこっちに来る。
こんな年寄り、女の私の力でもどうにかできそうな気がするけれど、そんな勇気はない。ゆかりを隠しながら逃げ回るだけで精いっぱい。
勇仁さん・・・勇仁さん・・・早く戻って来て!
『雪乃逃げて』
そんな声が聞こえた気がする。空耳かもしれない。でも、お母さん・・・お母さんだと思っていた育ててくれたお母さんの声だったように思える。
お母さん・・・お母さん・・・
あの頃の自分に戻っていたような気がする。
あの頃、ずっとお母さんに助けを求めながら、何も言えなかった。
お母さんに嫌われると、生きていけないと思っていたから。
ひゃ・・・
と、男がヘンな声を出し後ずさった。
『・・・由美子・・・なんで・・・死んだんだよな・・・』
頭がヘンになったのかと思った。
いや、元々ヘンだったのかもしれない。
やめろ!やめろ!と暴れ回る男の隙をぬって緊急ボタンを押した。
もしかしたら本当にお母さんが男と闘ってくれているのかもしれない。
今までもずっと傍で見守ってくれていたのかもしれない。
二人のお母さんが、いつもずっと見ていてくれていたような気がする。
二人のお母さんの生き様に触れたことによって、それまでよりもずっと身近に感じていて・・・
こんな修羅場な時に、そんな事を思っていた。
こんな時に・・・と頭を横に思いっきり振る。
その反面、ゆかりは私よりもずっと強かった。
私が震えている傍で、とても怖い目で男を睨んでた。
もしかしたら、本当にお母さんの生まれ変わりだったりして、と。
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