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恐怖や苦しみ、憎しみと決別できたと思うと同時に、まだ心の奥底が震えている。どうしても、覚えている感覚が無くなってはくれないのだ。
そう簡単に消え去ってくれるものではないのだろう。幼い頃のトラウマというものは。
それでも久々にファミレスでハンバーグを食べて、ドリンクバーの飲み物を少量ずつ何種類も制覇しながら時間を潰して、しおりの学校前に車を停める頃には、気持ちは切り替えられていたような気がする。
義実家の黒塗りの車を探しているしおりに、ゆかりが窓を開けて声を掛けると、とても驚いたような顔をして、そして満面の笑顔で走り寄って来る。
「びっくりした~
どうしたの?みんなで」
「今日はね、お父さんがお昼からお休みを取れたから、これから水族館に行こうって話になったの。どう?行く?」
「え?やだ」
「どうしてよ」
「だってお姉ちゃん、おしゃれしてるじゃん。私だけ制服なんてイヤだよ」
「そう言うと思ったよ。だから持ってきた。しゃがんで着替えな?」
子供たちの会話はテンポがあって面白い。
「ほんと?じゃあ行く!イルカさん、居るかな」
「え?イルカが居る水族館かあ。ショーの時間とか調べてないし。
今日は近場の予定だったから、イルカさんとの対面はまた今度って事にしない?」
勇仁さんが焦っている。
「今度っていつ?
お父さん、なかなかお約束しても守れないでしょ?
ちゃんとお約束守ってくれるんだったら今度でもいいけど。どうする?」
勇仁さんもタジタジ。
「それは・・・申し訳ない。
スケジュールを調整して確実に履行できる日をお伝えします・・・」
「なら、それでよろしく」
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