奮い立たせ

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クラゲの大きな水槽の前で動けなくなっていた。 この大きなガラスが割れて水が溢れ出す感覚に陥ってしまい、足がすくんで動けなかったのだ。 ビニールの大きなワニの浮き輪の上・・・浮かんでた。海。 暑い最中の海水浴。 まだ小さな頃だった。 お父さんがいた頃。学校に上がる前の事だ。 「しっかり掴まってるんだぞ?」 お父さんは言った。私は怖いけれど、お父さんの大きな背中にしっかりと掴まっているからその恐怖も愉しめていた、と思う。 落ちて溺れる可能性も考えて、おなかには普通の浮き輪も着けていた。 すごく愉しかった。 とてもとても、愉しかった。 何度も何度もねだっては乗せてもらってた。 『痛い!痛いよう!お父さん!お母さん!』 叫んだのを思い出した。 あまりはっきりとは覚えてはいないけれど、おそらくクラゲに刺されたんじゃないかと思う。海に落ちた時。 酷いショック状態を起こしてしばらく入院していた記憶。 「雪乃!良かった・・・大丈夫?痛くない?」両親が二人して同じような事を何度も聞いていて、答える時間も無いほど。 何も言えない私に、とても心配な顔を二人はしていた。目が覚めた時。 「ユキちゃんが死んじゃうかもしれないと思ったら、お母さん・・・」 と言って泣いていた。お母さん。お母さん、泣かないで・・・ お母さんが悲しいと、ユキまで悲しい・・・ 「お母さん、大好きよ?」 あの時にはちゃんと言えてた。 自分の気持ち。 そして、次から次と溢れてくる。 子供の頃の記憶。 どうして忘れてしまっていたのか、どうしてちゃんと思い出せなかったのか・・・
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