透明なおじさん

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 晴れた風の強い日だった。積もった雪がビュウビュウ高い音を立てて吹き飛ばされ、地吹雪が起こっている。厳冬期によくある光景だ。住宅街なんてことは関係なしに、雪の渦が誰かれ構わず道行く人を殴りつけている。  私は手紙を出すために郵便局へ向かおうとしていたのだが――近いからといって車で来なかったことを非常に後悔している。フードを目深にかぶっているというのに、カバーしきれない顔面が冷たい、寒いを通り越して痛い。絶対寒いだろうと思って、ポットにお湯を沸かしてから家を出てきたのは正解だった。早く帰って温かい飲み物を飲もう。コーヒーがいいかな、カップスープもいいな、そんな風に考えながら身を縮めて歩く。分厚い手袋をつけてきてよかったと心底思った。素手だったら私の手はもうすでに真っ赤だっただろう。  車に踏み固められてぼこぼこになった雪と氷の道路に足を取られないよう必死に歩く。郵便局にやっとのことでたどり着いたころには息が切れていた。十五分もかかってしまった、冬の悪路の手ごわさをなめていた。次からは絶対に車で来よう。いや、そもそも郵便ポストが近くにないのが問題なのだ、と頭の中で文句を言いつつ、鞄の中から封筒を取り出す。宛先の間違いがないかを今一度確認しようと思ったところで、分厚い手袋だったことが裏目に出た。  あっと言う間に風が封筒を引ったくって行った。そんなに軽くない封筒は、雪の上を転がるように吹き飛ばされていく。慌てて追いかけようとするが、雪に対抗するブーツではそんなに早く走れない。体力だって使ってしまっている。あっと言う間に引き離された、そう思った時、急に封筒の動きが止まった。もしかしたら雪に引っかかったのかもしれない。ラッキーだ。息を切らしながら、追い風と一緒に封筒に追いつく。封筒を拾い上げて、雪を払って――そういえばどこにひっかかったんだろう、ともう一度足元を見る。 ぼこぼこした、真っ白な雪の歩道。まだ新しそうな足跡がついている。男性のものだろうか、結構大きいな。でも、引っかかるようなものは見当たらない。
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