いくつもの赤

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 私がミート(まどか)からの内定をもらったのは、去年の夏だ。主な仕事は食肉卸業で、病院から焼肉チェーン店、リゾート施設などが主な販売先だ。ミート(まどか)は地元に根付いた老舗で、幼いころから聞き覚えがあった。耳に馴染んでいることから、きっといい会社なんだという根拠のない信頼もあった。それに、同じ(まどか)という名前から、親近感さえ持っている。でも私が描いていた未来はもちろん、肉屋ではない。  華々しく大学を卒業し、一発で管理栄養士の国家資格を得た。就職先では管理栄養士の資格を遺憾なく発揮したかった。幼稚園児たちのかわいい給食を作るのでもいいし、あるいは安定した公的機関に所属して、小学校や中学校の給食の献立を考えるのでも良かった。北の大地の魅力である艶々の野菜を、ジューシーな食肉を、様々な恵みを武器にして、地産地消と食育を押しすすめる魁となっていくのが夢だったのに。  私はこの春、ミート(まどか)に就職した。地元の管理栄養士の人手は足りているらしく、僅かな募集には倍率が跳ね上がる。献立を考える仕事に就くのは難しそうだった。それでも一応受けた採用試験は、三つとも一次試験で落ちた。夢は遠ざかり、現実というものを初めて垣間見た。それは長年学校と言われる場所で、頑張れば大丈夫だと教えられてきた未来ではなく、努力だけでは報われない世界だった。学校に来る求人は他に、食品工場や飲食店、菓子メーカーが多かった。それらを半分投げやりに眺めていた私は、殆ど当てつけのようにミート(まどか)を選んだ。純粋に生きてきた心が擦れていた。捨て身の堂々とした受け答えが良かったのか、採用試験はすんなり通ってしまった。私はこれも縁と思い直し、それ以上の就職活動を辞めた。
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