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それは私と同じ年齢の青年が主人公の長編小説だった。作者は世界的にも有名なノーベル賞作家。ページを捲っていくと、それが高校生の時に挑戦して上巻を読破したところで白旗を上げた作品であることに気が付いた。ひとりの青年のサナトリウムでの出来事を、やたら回りくどく、格調高い言葉で飾り付けたその作風が当時は嫌いだったはずだ。それなのに、その言葉の数の暴力性が今の私にはありがたかった。
B5紙面いっぱいに整然と並んだ文字列に目をはしらせるたび、私の脳は夏場に冷たいシャワーを浴びているような快感で満たされていくのだが、同時に今にも食道を食い破らんとする焦燥感も頭をもたげていた。今、この本を読んでいるのに、どこかで別の本のことをことを考えている。言葉が眼球の表面を滑っていく。いったいどうしたことだろう。
私のなかでとぐろを巻いている感情はだんだんと大きくなり、思わず本を閉じると、再度机の上でお利口さんに待っていたマグの取っ手を掴んだ。ラベンダーの香りを嗅いでも、立ち上る蒸気の温さを両頬に感じても、一向に心が落ち着かない。感情が極限まで膨張し、身体という殻を破り出らんともがいているようにも感じられた。
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