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予定の時刻から三十分遅れてようやく病院にたどり着いた僕が病室に入ると、美優は珍しくベッドの上で上半身を起こしていた。
「起きてて大丈夫?」
僕が声をかけると、
「うん、大丈夫。今日はちょっと体調がいいの」
と美優が答える。だけど、その顔は青白く、決して体調が良さそうには見えない。きっと無理をしているに違いない。
「僕のことは気にしなくていいから、横になってな」
「うん、わかった」
美優はやはり無理をしていたのか、僕の言葉に従って、ゆっくりと体を横たえた。
美優とは、幼い頃に通っていたピアノ教室で出会った。家が近かったこともあって、僕たちはすぐに仲良くなった。今となっては幼馴染と言える僕たちの関係を、彼氏・彼女の関係だと勘違いしている同級生もいるが、僕たちは決して付き合っている訳ではない。とはいえ、僕にとって美優がかけがえのない特別な存在であることは間違いない。美優のいない僕の人生なんて考えられないし、美優だって僕のいない人生なんて考えられないだろう。
美優はベッドの上から、虚ろな目で窓の外を眺めながら、
「私、このまま死んじゃうのかな……」
と弱々しい声で呟いた。
「バカなこと言うなよ。美優が死ぬわけないだろ」
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