Requiem

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 弱音を吐く美優に、僕は思わず言葉が荒くなる。そんな僕の言葉に答えることなく、美優はじっと窓の外を見つめ続ける。雨は激しさを増し、雷鳴も少しずつ近づいてきている。 「ねえ、裕翔(ゆうと)」  五分ほどの沈黙の後で、美優が僕の名前を呼んだ。 「何?」 「子供の頃にしたあの約束、覚えてる?」 「約束? 何だったかな……」  僕は記憶を辿ってみるが、思い出すことができない。美優とは小さな約束なら数え切れないほど交わしてきたが、改まって言うような特別な約束を交わした覚えはない。とはいえ、幼い頃のことなんて大抵は忘れてしまっているか、曖昧になってしまっているので、特別な約束をしていないとは言い切れない。  どうしても思い出せず、悩んでいると、 「忘れちゃったならいいよ」  と、美優は少し不貞腐れてみせる。 「教えてくれよ」 「嫌だよ」  美優の短いその言葉には、やはり力がない。その弱々しさが、ただ僕の不安を掻き立てる。  一時間ほど病室で過ごた後、僕が帰ろうとすると、美優が再び上半身を起こし始めた。僕は慌てて美優の背中を支える。背骨が直接手に当たり、身をもって美優の痩せ細り方を感じる。 「ねえ、裕翔。そこの、一番上の引き出しを開けて」  美優はベッド脇の小さなワゴンを指しながら言った。 「ここ?」     
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