7人が本棚に入れています
本棚に追加
弱音を吐く美優に、僕は思わず言葉が荒くなる。そんな僕の言葉に答えることなく、美優はじっと窓の外を見つめ続ける。雨は激しさを増し、雷鳴も少しずつ近づいてきている。
「ねえ、裕翔」
五分ほどの沈黙の後で、美優が僕の名前を呼んだ。
「何?」
「子供の頃にしたあの約束、覚えてる?」
「約束? 何だったかな……」
僕は記憶を辿ってみるが、思い出すことができない。美優とは小さな約束なら数え切れないほど交わしてきたが、改まって言うような特別な約束を交わした覚えはない。とはいえ、幼い頃のことなんて大抵は忘れてしまっているか、曖昧になってしまっているので、特別な約束をしていないとは言い切れない。
どうしても思い出せず、悩んでいると、
「忘れちゃったならいいよ」
と、美優は少し不貞腐れてみせる。
「教えてくれよ」
「嫌だよ」
美優の短いその言葉には、やはり力がない。その弱々しさが、ただ僕の不安を掻き立てる。
一時間ほど病室で過ごた後、僕が帰ろうとすると、美優が再び上半身を起こし始めた。僕は慌てて美優の背中を支える。背骨が直接手に当たり、身をもって美優の痩せ細り方を感じる。
「ねえ、裕翔。そこの、一番上の引き出しを開けて」
美優はベッド脇の小さなワゴンを指しながら言った。
「ここ?」
最初のコメントを投稿しよう!