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0-ゼロ―
「ひっく…。うぐっ…! …めなさい。ごめんなさいっ!」
少女は泣きながら、スケッチブックに筆を走らせる。
血のように赤い満月の光が、美術室の窓を通してスケッチブックを照らす。
そこに描かれていたのは、少女自身だった。
場所は今いる美術室。
絵の中の少女は、そこで首を吊っていた。
泣きながら少女は絵を完成させる為に、必死に色を塗っていく。
「こんなことになるなんて思わなかったの! ゴメンなさい! 許して!」
何度も涙を拭いながらも、それでも手を動かし続ける。
「ゴメンなさいっ…!」
しぼり出すような声を出し、少女は最後の赤い色を塗った。
ガタンッ…!
―そして少女は絵の通り、首を吊って死んだ。
スケッチブックが風も無いのに捲れる。
中に描かれているのは、多くの死体の絵だった。
鉛筆で描かれた絵もあれば、マジックで描かれた絵もある。
絵はそれぞれ、違う人間が描いたのだろう。
しかし共通点が二つ。
一つは描かれているのは、全て死体であること。
二つはその死体には必ず赤い色があること。
少女の描いた自身の絵にも、口元に血の色がある。
実際、少女の死体にも同じところに血があった。
少女が唇を噛み切ったからだ。
スケッチブックは何枚か捲り上がった後、元の少女の死体の絵のページに戻った。
少女の死体から流れる血が、ポタポタとスケッチブックに落ち、絵の中の赤が血の色に染まっていく。
鮮やかな血の色のおかげで、絵はその美しさを増す。
―そのスケッチブックには不思議な力が宿っていた。
強い憎しみを持っている人間のみが、所有できるスケッチブック。
描くのは殺したいほどの憎しみを抱く、人間の死体だけ。
正確に描けば描くほど、描かれた人間は想像通りに死ぬ。
故にそのスケッチブックは、こう言われている。
『死のスケッチブック』と―。
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