16人が本棚に入れています
本棚に追加
望むうそ
「一つ、お願いを聞いてもらっていいですか?」
「何だ?」
「4月1日、エイプリルフールに言ってほしい言葉があるんです」
「…お前、いい加減にしろよ」
目の前にいる彼は、うんざりした表情でため息をつく。
「俺、お前のこと、好きじゃない」
「知っていますよ?」
あなたが僕のことを嫌っていることぐらい、分かっている。
それだけ近くにいるから。
「なら諦めろ」
「…別にまだ、何も言ってないじゃないですか」
「予想がつくんだよ。俺はお前のことが好きじゃない。ならわざわざウソをついて良い日に言ってほしい言葉なんて、一つしかないだろう」
相変わらず妙なところで勘が働く。
「いいじゃないですか。たった一言なんですから」
「イ・ヤ・だ」
「一瞬ですよ?」
「断る」
頑固だなぁ。
でもまあそんなところも…。
「おいっ! 今、変なこと考えなかったか?」
…思うことぐらい、許してほしい。
「いえ、別に」
「答えるのが一瞬遅れたな?」
「気のせいですよ。それより一応、考えておいてくださいね。エイプリルフールのこと」
「お前な…。…そもそもその言葉を俺がお前に言ったら、どうなるんだ?」
「ウソでも良いんです。あなたの口から言ってほしい言葉ですから。その一言さえあれば、もう何もいりません」
…と言うのは、半分ウソだった。
最初のコメントを投稿しよう!