お返し

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その時、彼女さんが口を開いた。 「え? 何よウエハースって」 友人は彼女さんに事情を説明した。話が進む度に何故か彼女さんはニヤニヤとしていた。 「尊いわ!」 「え?」 「よりにもよって2月の14日に男がチョコを渡したことで相手が勘違いする。ここからはじまる愛があってもいいじゃない!」 「おい! テメー何言ってるんだ!」 「いいのよいいのよ。こんな青い箱の詰め合わせで送ってくる時点で相手が本気なのは明白よ! あなたはこの本気の気持ちに答えなきゃ駄目よ」 「また始まったよ」 「え?」 「こいつ、腐女子なんだよ。腐る女子って書くやつ」 腐女子、男同士の恋愛、所謂BLを扱った作品を好む女性の呼称である。 「いやーホワイトデーのお返しを受け取りに来たら男と付き合ってる事をカミングアウトするなんて最高のお返しだわ! 実に尊い!」 友人は頭を抱えて床に俯いていた。もう「違う」と言う気も失せているのだろう。 それから程なく、彼女さんは出て行った。出ていくその顔は心なしか満面の笑みに見えたのは気のせいだろうか。 おれは友人とお菓子の詰め合わせを摘んでいた。さすがに高級(たか)いものを買ったせいかさすがに美味しい。 「すまねぇ。変わった女でな。紹介するのが恥ずかしくてな」 「い、いや…… 面白い人じゃないか」 精一杯のフォローだった。 「てか今の時期に詰め合わせのお菓子買ったらこんな感じの青い包装になるじゃないか」 「ま、まぁな……」 「あれが俺からのバレンタインデーだったとしてもお返しなんていらなかったのに。ありがとなぁ。こんな美味しいモンもらって」 美味しそうにお菓子を食べるその笑顔を見ておれは勘違いながらもこの「お返し」をして良かったと心から思うのだった。                                    おわり
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