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おれは20代後半の独身アラサーのサラリーマン。2月14日のこと、舞い上がるぐらいに嬉しいことがあった。
普通に意中の女性にチョコレートを貰ったと思うところだが、そうではない。
なんと、男にチョコを貰ったのだ。
2月14日のこと、友人が遊びに来た。たまたまゲームの発売日と重なり、それを一緒にプレイするために来たのだった。
友人は黙々と液晶の中のゾンビを撃ち倒して行く。そんな中、友人がおれに言い出した。
「なぁ、バレンタインのチョコもらった?」
うるせぇな。こちとら彼女いない歴イコール年齢の女日照りのアラサーだよ。
それはお前も同じだろう。大学生の頃からこの友人とは付き合いがあるが女の気配なんて全くしない。ちなみにこの友人、男であるが女と見紛うぐらいに可愛い。小柄で細身の子猫のような男である。いわゆる年齢不詳合法ショタと言った方がいいだろう。それ故に女性からも恋愛対象として見られる事が無い。
「貰ってないよ」
おれは工場勤めで女との出会いは全く無い。接する女と言えば事務のオバちゃんぐらいだ。
あのオバちゃん義理チョコすら寄越しやしない。と、言ってもお互い義理すらないので当然だが。
「どうせそんな事だろうと思った」
友人は呆れたようにコントローラーの手を止めた。棒立ちになっているゾンビハンターの警察官がガブガブ食べられているがいいのだろうか。
それから自らの鞄の中から大量のウエハースチョコを出してきた。箱買いそのままの段ボールの状態だった。
「はい、あげる」
「おいおい、箱そのままかよ」
ウエハースチョコが30個入れられていた。一個一個包み紙に包装された立派なものだ。
「今日うちの会社にお菓子会社の営業さんが来たのよ。それで本来の箱の値段の4割引で売ってたから買っちゃった」
「本当に貰っていいの?」
「お前が好きだから持ってきただけの事よ」
おれにとってこの生涯で初めてもらったバレンタインのチョコ故に胸の中が熱くなる程に嬉しくなった。何より人から面と向かって「好き」と言われた事は初めてであった。チョコを貰った嬉しさなのか好きと言われた嬉しさなのかよくわからない。
多分両方だろう。
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