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そしてホワイトデー当日。結局、無難なお菓子の詰め合わせをお返しの品にすることにした。値段もあのウエハースの詰め合わせと同等かそれぐらいだから気を使わせることもない。おれは仕事帰りにあいつの住む社員寮に行くことにした。電話で連絡をしたところ「客いるんだけど、まぁいいや」と、言われた。さすがに今の会社で友達の一人や二人いるだろう。別に気にする必要はない。
突然の来訪にも関わらずおれは愛想よく迎えられた。1LDKの部屋の奥に行くと我が目を疑うものがちょこんと座っていた。女だ。おれはそれを見て全身の血の気が引いた。
「ああ、そうだ紹介してなかったな。俺の彼女」
NO WAY! ありえない。俺は慌ててお返しのお菓子の詰め合わせを背中の裏に隠した。
大学時代はほぼ毎日会っていたんだからこいつに女っ気が無いのは知っていた。だが、社会人になってからは月に一度は会えばいい方だ。会わない間に彼女の一人や二人出来ていても不思議じゃない。
「ところでお前今日は何しに来たんだ?」
友人の彼女の前でホワイトデーのお返しをしに来たなんて言えるはずがない。おれは冷や汗をかいていた、手にも汗をびっしょりとかき始める。その汗で手が滑りお菓子の詰め合わせを落としてしまった。
「何だよ。ホワイトデーのお返しか? お前返すような奴いたっけ?」
お前だよ! そこにいるのが彼女さんじゃなかったらこの前のお前の告白の返事してるところだよ! おれに告白しておいて彼女がいるとはどういうことだ。付き合う前から浮気か?
「ひょっとしてこの前のウエハースの礼か?」
「そうだよ」
「そっかそっか、お前あのウエハース好きだから買ってきただけなのにお礼されてもなぁ」
「本当に貰っていいの?」
「お前が好きだから持ってきただけの事よ」
冷静になって考えたらおれがこのウエハースが好きだと言うことを知ってたから買ってきただけじゃないか。おれ一人で「好き」って言葉だけで舞い上がって馬鹿じゃないか。
おれは世界一、いや宇宙一の大馬鹿者だ。
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