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「……二人暮らしって言ったよね。もしかして……孤独?」
「そうだ。伯爵は、永遠の命に倦んでいた。彼は身寄りを失った君の中に、いつしか己の孤独を見たのさ。誰も自分を知る者がいない。何を成しても、それを見てくれる者はいない。特殊な能力があるがために、誰かと共には生きさせてもらえない。……伯爵は、吸血鬼として生きるには感傷的すぎたのかも知れない」
――おい。ローラ。どうしてそんなに土まみれなんだ。
――城の庭から、リーキやチャイブを抜いてる? 何でまた……
――……そうか。確かに、ネギ類はニンニクを想起させるな。
――いや。いい。感謝するよ。……ありがとう。
「ローラ」
「ごめんなさい。私、また」
「気分が?」
「いえ、続けて」
「とにかく、君たち二人の生活はそれなりの安定を見せていた。日々弱っていく伯爵に、君が同情を寄せたせいもある。伯爵もそれを嫌がっていなかった。さて、そんな暮らしが一年ほど続いたある日、この城に大変な危機が訪れる。衰弱によって失われようとしている『吸血鬼の生命』を手に入れんと望む――命と霊のコレクターが、伯爵に目を付けた」
私は喉を鳴らした。
「それが、例の」
「デュラハンだ。漆黒の馬に跨った首なしの鎧騎士。そいつは、疫病をまき散らす死の使いでもある」
「……え?」
「そう。疫病によって君の村を全滅に追いやり、その死霊を下僕として使役していた、君の仇敵だ」
私は拳を握った。固く。
顔も覚えていない両親の、それなのに死を思うと、怒りが沸き上がった。
自分の歯ぎしりの音が聞こえる。
「当時の君も、村の仇がそいつだと知ると、そんな顔をしたよ。しかし君に勝ち目はない。だが、奴を許さない者がもう一人いた」
「それって」
「君を拾った、お人よしで、長年血を吸っていないせいで不老不死どころか半死半生の、愚かな吸血鬼だ。アリューデルエルトは、君と、君の村の仇を取るために、デュラハンとの決闘に臨んだ。この城の中庭でね」
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