第四夢 仲間集め

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第四夢 仲間集め

少年はいずれこういった再会もあるはずだと思っていた。 結城の夢見に参加して10日目。 ランスは師匠であったデゴイラと対面することになった。 「殺すなよ」とだけ結城はランスに言った。 ランスは、「へまはしねえよ」と笑みを浮かべて言い返した。 ランスの師匠であるデゴイラは悪意をまとい、ランスから見ると無表情の仮面をかぶっていたが、その仮面が見えない者は、デゴイラに驚きの表情を見ている。 「あー、悪かったな親父…  オレがいなくなって悪意が沸いたか…  オレ、今はその悪意を消す仕事をしているんだよ。  オレの関係者が悪意をまとっちまったら信用なくしちまうんだけどな。  その仮面、はいでもらいてえんだが」 ランスが言うと、デゴイラは笑みを浮かべた。 ランスの言っていることがまったく通じていないようだ。 「廃人になるのは早すぎるよな。  ちょっとしたトランス状態か…」 デゴイラは笑みを向けているだけで何も言わない。 結城が暴れまくり、デゴイラは悪意をまとったまま恐怖に落とされてしまったようだ。 悪意にまかれた初期は、このような症状に陥りやすい。 「仕方ねえなぁー…  はっ!!!」 ランスが声を荒げ叫んだだけで、デゴイラの悪意は吹き飛んだ。 デゴイラは白目をむいて、力なくその場に崩れ落ちた。 ランスはサイコキネッシスを使って、すでに拿捕している懐かしく思えた宇宙船にデゴイラを運んだ。 デゴイラたちを乗せていた宇宙船は、結城の影、破天荒によってオートパイロットで飛んできた星に向け返された。 「もっと派手に戦いたかったんだけど…」 ランスが言うと、結城は苦笑いを浮かべた。 「オレはそうなると思っていたんだがな。  まさか悪意に負けているとは思わなかった。  おまえの親父さんはかなり中途半端だ。  悪になりきれない悪、といったところだろう。  …さあ、依頼主のいる場所に戻るぞ」 ランスはすぐに結城の後を追った。 もうこれで、ランスが住んでいた星に未練はないと二度と振り返らないことを誓った。 … … … … … ランスはいつも通り心地よい目覚めだたのだが、やはり多少は気が重い。 だがこんなことではいけないと思い、自分自身に活を入れた。 「今日はいつも通りに過ごし、明日は休養する。  とかもいいんじゃないのかい」 結城が言うと、ランスは結城のにやけ顔をにらみつけた。 「あんたら、そんなことだから能力低いんじゃねえの?」 ランスは天狗になっているわけではない。 やはりランスの能力は誰よりも高いのだ。 さらにはメダルを吸収することで、善の気持ちもさらに大きくなっている。 今のこの星のリーダーはランスだと言っても過言ではないのだ。 「ランス君、少し冷静になって自分自身を探ってみてよ」 セイルがかなり困った顔をしてランスに言った。 ランスはかなり素直に瞳を閉じた。 「うっ!!  高揚感ポケットの疲労と肥大っ!!」 ランスは高揚感を溜め込む風船のようなポケットを心に持っている。 これにより多くの高揚感を溜め込めるのだが、この部分は一晩眠ったくらいでは回復しない。 できれば、三日に一日は休養した方がいいほどなのだ。 この件に気づいたのは結城で、ランス自身も確認できるようになった。 これに気づいた日に休養したのだが、その翌日はかなりハードな訓練をしたため、結局は休む前以上に高揚感ポケットを痛めてしまったのだ。 「セイラのようになるぞ」 「うっ!」 結城の言葉は、ランスに重く突き刺さった。 もし高揚感ポケットを失くしてしまうと、ランスはごく一般的な戦力でしかなく、大宇宙統括など夢のまた夢となってしまうのだ。 症状はサボり癖のあるセイラとはまるで逆になるのだが、鍛え過ぎも程々だということになる。 「三日休養。  そして復帰後も高揚感ポケットの使用を禁止する。  だが、気功術の修練は常に積め。  それに集中しろ。  まったく違う修行だからな。  もし使ったと発覚した場合、休養5日間。  休養の日がどんどん増えるから覚悟しておいた方がいいぞ。  そして基礎体力訓練は続けろ。  基本的には組み手禁止と言った方が早かったな」 「…オッス…」 ランスは渋々だが、結城の言葉に従うことにした。 ランスはマックスとセイルの近くがお気に入りだ。 同年代の者はマックスかダンに寄り添う。 マックスはダンよりも少し厳しい性格なので、ランスも気が合うのだろうと感じている。 「…学校にでも行こうかなぁー…  三日間、何をしたらいいのかよくわかんねえからなぁー…」 ランスがつぶやくと、マックスは小さくうなづいた。 「それもいいと思うぞ。  だがな、姉ちゃんが色香に走る。  だがそれも一興。  楽しい学園生活になりそうだ」 マックスが少し苦笑いを浮かべながら言った。 「…やめてくれよ…  やっと落ち着いたってえのにー…  …だが、仲間探しもしねえとな…  現在団員ゼロだし…」 「なんだそれは…」 ランスは思わずつぶやいてしまって、マックスに食いつかれてしまった。 ランスはヒソヒソ声で話し、マックスは理解できたようだ。 「オレ、機械の体代表で行くぞ」 「おいおい…」 マックスがランスについてくれれば鬼に金棒だ。 だがマックスはこの星でも中心人物に近い存在だ。 もっとも、師匠であるゼンドラドも結城も手放すはずがないのだ。 「そんなことしちまったら、オレ自身が行けなくなっちまうと思う。  できれば辞退して欲しいんだけど…  セイル君もだよ」 ランスが言っている間に、セイルがかなり喜んでいたので先に釘をさしたようだ。 「いや、大丈夫だ。  オレはゼンドラドと覇王さんの弱みを握っている。  オレはなぁー、  こういったビッグチャンスを待っていたんだよ、ランスゥー…」 ランスにマックスの猛烈な畏れが襲い掛かったが、今はまずいと思って受け流した。 「なぜもっと早く言わなかったんだっ!!」 マックスは今度は普通にランスを怒った。 だがランスはこっちの方に心にダメージを負った。 ―― これが本当の友… ―― と思いうれしく思ったのだが、よく考えるとマックスが活躍したいだけじゃないのかと思い直し冷静になった。 「言っておくぞ。  もちろんランスあっての話だからな。  リーダーがランスでなければ、頭を下げられても行くことはない。  オレは強情だ。  時には使いにくいこともあるだろう。  だが、ランスの命令は絶対に服従する。  それだけは誓っておこう」 ランスは疑ってしまって申し訳ないと後ろめたさを感じたが、直情の方が正しかったと思い直し、高揚感が沸いたが維持することにした。 「大声で内緒話をするな…」 ゼンドラドがかなり困った顔をして、ランスとマックスを見た。 「別に構うもんか。  …ランスが大宇宙開放戦士を募っている。  期間は未定だ。  入団試験はオレが全て請け負う。  当然能力重視、  さらにはこの星を捨ててもいいという覚悟を持った者だけだ。  希望があったらいつでも言ってくれ。  窓口はセイル」 ―― 事務処理はセイル担当なんだな… ―― とランスは思い少し笑った。 「ボクも行きたいんだけど…」 セイルは苦情を申し立てたのだが、マックスは見向きもしなかった。 だがよく考えるとエラルレラがいるなと思い直し、「セイルはオレが推薦する」とマックスはランスに言った。 セイルは満面の笑みをランスとマックスに投げかけ喜んでいる。 「いやぁー、オレはうれしいんだけどな…」 かなり弱気になってしまったとランスは思ったが、心がどんどん温かくなってきた。 心から信頼できる友は必ず現れるんだとランスはさらに高揚感を上げた。 「私も行くわ」とセイラがいきなり言ってきた。 「それは却下」 ランスが素早く言うと、マックスは目を閉じてうなづいていた。 「理由は恋愛禁止だから」 「んなっ?!」とセイラは言って、また落ち込んでいる。 「オレたちが望むのは硬派な戦士だ。  色恋沙汰に悩むようなやつはいらんっ!!」 マックスは堂々と言い放った。 セイラはマックスには何も言い返せない。 かなり困った顔を見せているだけだ。 「だがな、やはり花は必要だ。  まだ話したことはないんだけどな、  もうひとりのマックスとコンタクトを取りたい。  よって、セイルは留守番」 ランスが言うと、マックスは大声で笑った。 セイルはランスとマックスを上目使いでにらんでいる。 やはり強い者は嫌でも耳に入ってくるものだ。 ついてきてくれる可能性は低いのだが、ここはダメで元々とランスは言ったのだ。 「マックスさんはオレから話しをしよう。  オレとしては、いい返事がもらえると期待している」 マックスは堂々と言い放った。 「ランスは最高の友を手に入れたようだな。  オレはいいと思うな。  だが、ゼンドラドさんはどうだろうか。  さらに忙しくなってしまうぞ」 結城がマックスを責めるような言い方をした。 「大丈夫です。  ゼンドラドは能力を抑えていますから。  そうだよな、ゼンドラド」 マックスが言うと、ゼンドラドは、「余計なことを言わなくていい…」と言ってマックスをにらんだ。 「オレがゼンドラドの一部だった時、オレに妖怪の魂をあてがった。  元のゼンドラドの魂の一部だったオレは、  ほんの数日間でゼンドラドの魂に戻った。  その底上げ分だが、この三年間で一度も見たことがない。  まあもっとも、それも修行だといわんばかりだけどな。  さらには強すぎるボスは誰もが頼りきってしまう。  まさに神扱いだ。  それも避けたかったんだと思うぞ」 ゼンドラドと結城は苦笑いを浮かべた。 「この宇宙は強すぎる神に守られている。  安心して過ごしていいと思ってるんだ」 ランスはこの話は知らなかった。 後でじっくりと聞こうと思って、今は黙っていた。 「ああ、ひと言だけ。  オレは神ゼンドラドの悪だったんだよ」 このひと言だけで、ランスは全てに納得した。 あの悪が何らかの状態で魂のようなものになり、機械の体を得ることで正しい道を歩むことになった。 それほどにゼンドラドの魂は高尚だと、ランスは思ったようだ。 「麗子さんの悪も、そんな変体をしていないかな?」 ランスが言うとゼンドラドは、「十分に考えられるが、かなり強いぞ」と言った。 「じゃ、見つけ次第仲良くなるということで」 ランスが簡単に言うと、マックスはランスの肩を力強く叩いた。 「オレもいいと思う。  やはり気が合うな」 ランスはうれしさのあまり、さらに高揚感を上げた。 「あ、発散しないと爆発しそうなんだけど…  ああ、高揚感ポケットは使ってねえから…」 ランスが言うと、科学技術者の細田が、妙な機械を持ってきた。 「ランス君、この箱の中で叫んで欲しいんだ。  君の高揚感を貯め込む装置なんだ。  そして、銃のようなもので撃ち出す。  地獄ではかなり安全な攻撃ができるようになるんだよ」 ランスは今日までに数回、この細田に会っている。 人力列車も訓練場も、細田の製作により実用化されたものだ。 ランスは疑うことなく箱に頭を突っ込み、「最高の友を得たぞっ!!!」と叫び、すべての高揚感を吐き出した。 「あーすっきりした…」 ランスが言うと、「おお、すごいなぁー…」と言って細田はかなり喜んでいる。 そして銃のようなものを出して、充填を始めた。 「今の叫びだけで、10時間ほど使えますね。  早速試してきましょう」 科学技術者だがとんでもないなとランスは苦笑いを浮かべている。 もっとも戦闘能力としては、かなり高いものを持っているので、マックスがまるで心配していないのだ。 「細田先生に任せておけば全て安心だ。  オレの体も、細田先生が造ってくれたんだからな」 ランスはこの話は初耳だったので、かなり驚いたようだ。 「どんな人が造ったんだろうと思っていたんだが、細田先生だったのか…」 「宇宙船まで造っちまうんだから、オレくらいなら普通だぞ」 マックスは堂々と言って、ランスを喜ばせた。 「だとすると細田先生も欲しいよなぁー…  戦いでもそうだけど、  すごくいいアドバイザーになってくれるような気がする…」 ランスが言うとマックスが、「ああ、いいんじゃないのか、言っておこう」と簡単に言った。 「いや、言っておくって…」 「細田先生は今は10人いるからな。  今の人はここの担当の細田一号さんだ」 「…うっ!  今の細田さんって、ロボット…」 ランスが言うとマックスは笑顔でうなづいた。 「詳細なほかの大宇宙の情報収集もできるから、無理にでもついてくると思うぞ。  こっちから先に言っておいた方が気兼ねすることもないからな」 ランスは納得したが、やはり機械に頼り過ぎていると感じている。 だが、マックスは魂を持っているので人間だ。 まだ会っていないマックス・セイントも、とんでもない能力者だが、もちろん魂を持っている。 それほどの人材がいないと、スムーズに大宇宙の統括なんてできないと、ランスは考え始めた。 「そうだ。  三日間みっちりとマックスさんに張り付けばいい。  ずっと遊んでいるからな。  友達になれば話もしやすいだろう。  今のままのランスでオレはいいと思う。  きっと、気に入ってくれるはずだ」 「そうか、そうしよう。  ダンジョン、だよな?」 ランスが言うとマックスは笑顔でうなづいた。 ランスを潤んだ瞳で小さな蓮迦が見上げていた。 「ダンジョン、来るか?」 蓮迦は何もしないよりはマシと思ったようで、「時々行くの…」となんとか言葉を搾り出したようだ。 「小さな遊園地でデートもできるよな?」 ランスが笑顔で言うと、蓮迦の表情が一気に変わって、「すっごくうれしいのっ!!」と言ってかわいらしくはしゃぎ始めた。 セイラとカノンは、この光景を見ながら歯軋りをしていた。 「親交を深める大チャンスだったのに…  まじめ過ぎるやつ…」 「私の息子だからね、ごめんなさい…  親特別枠とかないかなぁー…」 「恋愛しないと約束できるのならいいと思うわよ。  だけど、破ったら息子から勘当されるわよ」 セイラの言葉がかなり堪えたようで、カノンは言葉を失った。 ランスは休日の一日目の朝、森羅万象の術の持ち主のマックスに会うためにエラルレラ山に行ったが、メダルのことが気になり、まずは山の中腹に飛んだ。 トンネルをくぐると、朝早くからもうルオウが仕事をしていた。 ルオウは捕らえている悪の出入り口から多くのメダルをかき出していた。 「ルオウさん、おはようございます」 トンネル内部は少々音が反響するので、ランスはごく普通の声であいさつをした。 「やあ、おはよう、ランス。  メダル、吸収しとく?」 「はい。  身長以外に、何かほかに変化があればと…」 ルオウは笑顔で、かなり重いはずの巨大な箱をひょいと軽々と持ち上げ床に下ろした。 メダルが満杯に入っていると、数百キロの重さがあるそうだ。 その巨大な箱は30はある。 ひとつの箱には100万枚のメダルが入るそうだ。 ルオウはいつものように、ルオウに背を向けている。 ランスはメダルが吸収されていく感覚が好きだ。 まさに心が洗われる感覚。 10分ほどで、今日の分の吸収を終えた。 箱の半分ほどメダルが入っていたのだが、空になっていた。 「身体的変化はもうないようだね。  後は能力と精神的な部分。  何か変わったところってないかな?」 ルオウが言うと、ランスは表情を曇らせた。 「すっげえめんどくせ」 ランスは自分自身の口から出た言葉に驚いた。 ルオウは一瞬固まったが、「やっと出たね、おめでとうっ!」と言って喜んでいる。 「い、いやぁー…  とんでもないことを言ったと思うんですけど…」 「ボクもセイントも知っているんだよ。  君はね、『すっげえめんどくせ』が口癖だったんだ。  その割に人よりもかなりマジメに仕事をする。  これが正常化の兆しが見えた第一歩なんだよ」 「ああ、だったら今のままでも…  なんだかカッコわりいし…」 「だけどね、高揚感ポケットだけど、その成長もメダルの中にあるはずなんだよ。  本来なら一日使えば二日は休む必要がある。  でもね、メダルを吸収すれば、一晩休ませれば完全に復活するようになる。  ボクはそっちの方がお勧めなんだけど」 「うっ!  究極の選択…」 ランスが言うと、ルオウは陽気に笑った。 「あ、ちなみにこのことを知っているのって…」 「ボクとセイントとゼンドラドさん。  カノンちゃんには言ってないよ。  カノンちゃんもね、妙な性癖があったんだ。  君の事をかわいがったって言ったよね?」 「は、はあ…  あれだけかわいがってやったのにヘタレだって言われましたね」 ランスはいいながら、今更ながらに腹が立ってきたようだ。 「君の口癖が妙に憎たらしくってカノンちゃんは大好きだったんだよ。  これはセイントの悪い性格を引き継いでいると思うんだ。  いい性格は知っていると思うけど、セイントの息子セントの性格。  セントとカノンちゃんは双子として同時に生まれたんだ。  セイントは自分の嫌な性格を誇張した  カノンちゃんの方を大いにかわいがったようなんだよね。  セントはそういったセイントも好きだったんだ。  だからセイント以上にマジメになったんだよ。  その性格は、ゼンドラドさんまで引き継いでいるんだ」 神の家系はもうすっかりランスの頭に焼きついている。 ランスは、―― セントの家系の方がよかった… ―― と、しみじみ思ったようだ。 「だからカノンちゃんは口癖はないけど  心の中ではいつもそう思っているようなんだよ。  だからそれを反省して、表面的にはすっごくいい子なんだ。  仲良くなっちゃうときっと、本当のカノンちゃんが見えてくるって思うよ」 「はあ…  できれば治して欲しいところっすね…」 ランスが言うと、ルオウは少し笑った。 「だからセイントは君にすっごく期待して会うことを楽しみにしていたんだよ。  だけど第一声を聞いたのがボクだから、かなり悔しがるって思うよ」 ランスはかなり納得したようだが、強制的に納得しなかった。 「でもね、すごいのはさっきも言ったけど、  めんどくさいといいながら今の君のようにすっごくマジメで  冷静で頭の回転が早いところなんだよ。  それが一番の君の持ち味だってボクは思っているんだ」 「できればその口癖、治したいっす…」 「そうだね。  そういった努力をしてもいいし、しなくてもいいと思うんだ。  だけど問題はマックス君」 「うっ!!  オレ、嫌われるかもっ?!」 「大いに考えられるからね、先に言っておいた方がいいよ。  でもね、その程度で嫌うのなら、本当の友達じゃないよ」 ―― それはその通り… ―― ランスはこの件に関しては納得した。 だがやはり、マックスにだけは言っておいた方がいいと思って、ルオウに礼を言ってから外に出た。 今の時間はマックスは学校にいるので、極力誰にも会わないように、小さな遊園地で少し時間を潰した。 休憩時間のベルがなったとたん、ランスはすぐに学校に飛んでマックスを探した。 簡単に見つけ出して、ランスのこれから発声する性癖の話しをした。 「いや、聞いておいてよかったと思う。  誤解が解けるころには、君がオレに愛想を尽かしたかもしれないからね。  だけど、どういった感じで言うんだい?」 ランスはほっと胸をなでおろして、一度だけ言った言葉とその発声を思い出した。 「すっげえめんどくせ」 ランスが言うと、マックスは顔を伏せて笑い始めた。 どうやら、マックスのツボにはまるニュアンスだったようだ。 「い、いや、笑って申し訳ないっ!!  きっとな、また聞いても笑ってしまうから許して欲しい」 「いや、オレの方が悪いから。  …治した方がいいと思うか?」 マックスは少し考えてから、 「個性があっていいと思う。  しかも本来の性格は今の君だから、  ギャップがあって好感も持てると思うんだ」 と言ってから、思い出し笑いを始めた。 今のところは笑われても腹は立たないが、完全に元に戻った時に怒ってしまうかもしれないので、それだけは避けるように心に刻んだ。 「マックス、何がそんなにおかしいのよ…」 セイラが絡んできたので、ランスは素早く、「ありがとう」とマックスに礼を言って慌てたように飛び、エラルレラ山に向かった。 これから会う約束をしているマックスにも言っておくべきだとランスは思ったので、忘れないようにした。 ランスは、『グリーンドラゴンダンジョン』と書かれた大きなゲートに向かって飛んだ。 するとすでに、結城によく似た人物が、ゲートのそばに立ってランスに向けて手を振っている。 「遅くなって申し訳ありません」 ランスはいいながら地面に足をつけた。 「いや、いいんだよ。  暇つぶしの方法はたくさん知っているからね。  ああ、さっきの話聞いたから。  マックス君、大喜びだったね」 ―― 一体、どうやって… ―― ランスは驚きの顔をマックスに見せた。 「今のボクは、この星全ての場所とつながっているんだよ。  だからね、聞き逃すことはあまりないんだ。  たった三年で、みんなはすっごくいい人になったよ」 「はあ、すごい術ですね…  ですが、リスクってないんですか?」 「ないよ。  その代わり、人間の肉体を失っちゃったから。  だけど、エラルレラさんやセイル君は人間の肉体と同じものを手に入れた。  すごい科学技術者がいたもんだね」 ランスはこの話は最近セイルから聞いて知っていた。 細田ではなくまた別の宇宙にいるクレオという名の元ヒューマノイドの科学者が開発したそうだ。 そして今は当の本人も魂を手に入れて、セイルと同じ体を持っている。 やはり魂があった方が、処理能力が高いようだ。 ピコマシンという名の、人間の細胞よりもかなり小さいロボットの塊がセイルやエラルレラの肉体を作り出している。 まるで人間と同じように、体内で小さなロボットを作り、機能しなくなったものと差し替えている。 よって、人間とほぼ同じ器官を持っているが、当然のように簡素化されている。 複雑な部分は記憶する場所。 みっつの脳があり、常に比較をして欠損箇所を補充したあとに書き足している。 そうしておけば、人間よりも確実な記憶が得られるのだ。 エネルギー源は食べ物と光。 さらにはピコマシン自体が発熱するので、この熱も利用している。 セイルたちは機械だが画期的な人類と言っても過言ではない。 ランスはひとつだけ気になる話しをセイルから聞いていた。 それは睡眠についてだ。 「マックスさんは夜寝るんですか?」 「ううん、起きっぱなしだよ。  それもね、修行で心が狂わないようにしてあるんだよ。  だけどね、セイントの夢見に便乗した時、  すっごく爽快な気分を味わったんだ!  だから時々は、夢見に参加してるんだよ」 やはり魂も眠らないと機能が低下することがあるが、長い修行の末、それを克服できるということもランスは知った。 話はこれくらいにして、ダンジョンではなくショップに移動した。 このショップで武器、防具、消耗品を買ってからダンジョンに行く。 ランスは初体験なので、レベルは1。 今回はマックスが全ての装備を買ってランスに与えた。 NPCという案内人もいるのだが、もうマックスは全てを知っているので、話しをすることはなかった。 「マックスさんはレベルはいくつなんですか?」 「あはは…  153だよっ!  ここ、大好きだから、ほとんどずっとやってるんだっ!  ああ、仲間集めの話も聞いたよっ!  自由時間をもらえるのなら引き受けるから」 「本当ですかっ!!  うわぁー、最高にうれしいなぁー…」 ランスはガッツポーズをとった。 そして、根城はこの星にしようと思い、マックスにも伝えた。 「そうだね。  それが一番うれしいかもねっ!  細田先生に色々とおねだりしてもいいんだ。  気さくに対応してくれるからねっ!  楽しめることだったら何でも叶えてくれるよっ!」 「では、このダンジョンも…」 「ううん。  ここはグレラスさんの神通力で動いているんだよ。  ボクにも使えるけど、ここの作品は本当に見事だって感心しているんだっ!」 このマックスを熱中させるものを造っただけでもすごいことではないかと、ランスは思ったようだ。 早速ランスとマックスはダンジョンで戦い始め、ついにランスの本性の見え隠れが始まった。 さすがにレベル1だと簡単にはモンスターは倒れない。 ランスは、「すっげえめんどくせっ!!」と豪語しながらも、モンスターを倒している。 そのたびにマックスは腹を抱えて笑っている。 このマックスも、ランスの生態のギャップに、笑いのツボが敏感に反応しているようだ。 一時間ほど楽しんで、二人は休憩することにした。 「いやぁー、すっごく笑っちゃったよっ!!  こんなに笑ったのって記憶にないねっ!!」 ランスは、―― もう慣れてしまった… ―― と、笑われたとしても問題はないと感じて喜んでいた。 ふたりはダンジョンを出て、学校の学食に行った。 ランスは少々恥ずかしがったが、マックスはダンジョンでの様子を映像として披露を始めた。 近くにいた者は、笑ってはいけないと思いつつ、笑ってしまう。 ランスはこれも修行として、快く受け入れていた。 セイラたちとは別の席にいたのだが、またランスに寄り添おうとしたので、マックスが簡単に仕切りを作ってセイラの邪魔をした。 さすがのセイラもマックスには刃向かわないようで、つまらなさそうな顔をした。 「うーん…  かわいそうなんですけど…  すっげえめんどくせえんですけど…」 ランスが言うと、マックスは満面の笑みを向けた。 「きっとね、めんどくさくなってまた豪語しちゃうよ?  それでいいんだったらこっちにこさせるけど…」 「はい、お試しで…」 「あははっ!  それ、いいねいいねっ!!」 マックスは仕切りを外して、セイラたちも誘った。 「マックスさん、ありがとうっ!」とセイラたちがマックスに言ったが、「ランス君の許可が出たからだよ」とセイラを少しにらんで言った。 「…あ、はいぃー…  ランス、ありがと…」 「おっ!  …お、おう…」 セイラは今までにない素直な顔と言葉で言った。 セイラの別の一面を垣間見て、ランスはかなり照れてしまったようだ。 すると蓮迦が天使服を脱いで、マックスを守るように後ろに立った。 まるで、『私のものだっ!!』と言わんばかりに厳しい表情を見せている。 「蓮迦、そういったのってオレは嫌いなんだ。  言うことを聞かなければ恋人解除…」 蓮迦はそそくさと天使服を着て、元いた席に座った。 「言っておくが、妙なボディータッチはするなよ。  蓮迦が本気で暴れるからな。  これはオレのせいじゃないからな」 ランスがさらに釘を刺すと、「…わ、わかったわよぉー…」とセイラはかなり不服そうに言った。 「母親は抱きついてもいいわよね?」 カノンがランスの顔をのぞき込んだが、「記憶がねえから却下」と簡単に言われて、今はあきらめることにしたようだ。 「私は勇気がいてよかったわ…  私もランス君争奪戦に参加しちゃいそうだもの…」 「ああ、早百合さんの恋人だったんですね。  大山勇気さんですよね?」 ランスの口調が私たちと違うと言って、セイラたちが騒ぎ始めたが、マックスがセイラの口を封じた。 かなり反省したようで、騒ぐことはやめたようだ。 そしてランスの映像が流れると、近くにいる半数以上は大爆笑している。 ランスはセイラの取り巻き四人を観察して、少しほくそ笑んだ。 そこに、かなりめんどくさい結城が現れた。 「オレの楽しみだったのに…」 結城がランスをにらんで言うと、「おまえ、すっげえめんどくせえんだけど」とランスは言って、ついには全員が大笑いした。 これはクセの方ではなく、ランスの本心だったので、さらにツボにはまった者が続出したようだ。 ランスとマックスは、今度はサークリット遊園地に飛んだ。 遊園地には本来あるはずの、『初心者ダンジョン』がある。 まずはここでランスのレベルを上げようとマックスは思ったようだ。 ここはエラルレラ山のプライベートな場所ではないので、入園客が大勢いる。 よって、見知らぬもの同士が、8名までのパーティーを組んで戦う。 エラルレラ山のダンジョンと同一システムなので、鍛え上げたレベルはそのまま流用できる。 ランスたちは、10才程度の男女混合の5人とパーティーを組むことになった。 「さて…  実力のほどを見せてもらいたいね」 マックスが意味ありげにランスに言った。 今の言葉だけでは何を示唆しているのかランスにはわからなかった。 やはり子供は熱中すると周りが見えない。 ランスは怒らせないように全員の統率を取り始めた。 子供たちもランスにある程度は従うようで、少しばかりダンジョンを進んだところで、「今までで一番遠くまで来たよっ!」と言って喜んでいる。 子供たちのレベルはランスと同じで5だった。 マックスはほとんど戦わず、状況把握だけをしていた。 だがさすがに戦わないと子供たちににらまれるので、戦っている振りだけをしている。 こういったことも、マックスは楽しそうに演技をしている。 少々強敵が現れた。 中ボスというやつで、ここがこのダンジョンの中間地点となる。 「ここまでくるとね、お土産がもらえるんだっ!」と子供たちは言って口々に喜んでいる。 「だけど、コイツも倒すぞ」とランスが言うと、「おおっ!!」と子供たちは雄たけびを上げた。 恐竜のような中ボスは動きは鈍い。 だがその分硬い。 数多くの手数を出し、制限時間内に倒す必要がある。 たったの三分しかないので、ランスは簡単な作戦を練った。 全員が恐竜を囲んで、フェイントを見せてからの時間差攻撃を、ひとり飛ばしにさせた。 そうすることで、恐竜はうろたえるのだ。 その隙も狙ってフェイントと攻撃を繰り返す。 ランスたちは難なく恐竜を倒した。 子供たちは最大級の高揚感に包まれた。 この勢いで先に進んでいった。 さすがに後半になるとザコモンスターも強くなる。 悪魔の僕のような羽を持つモンスターがかなり鬱陶しい。 アーチャーがいないのでかなり不利だった。 ランスは少し考えてから、結城に使った姑息な手段を実行した。 ランスは飛行術は使わず、地面を蹴って飛び上がり、モンスターの斜め上方から激しく息を吹きかけた。 モンスターはこの攻撃を嫌がったのか、地面の近くに下りてきた。 待ち構えていた子供たちが一気に攻撃を仕掛けて簡単に倒した。 レベルが高いモンスターだったようで、攻撃しなかったマックスを除いて全員のレベルが上がって喜びあった。 山の頂上にたどり着くまでに、みんなのレベルは8にまでなっていた。 この初心者ダンジョンのトップは今はれべる9だという。 しかも、ここまでたどり着いていないそうだ。 「さあ、大ボスがそろそろ出てきそうだな。  また慎重に陣形を取るぞ」 ランスが言うと、緊張してしまっているようで、子供たちはかなり困った顔をしている。 ランスもマックスもこれには少々困った顔を見せている。 「緊張感…  みんな、ドキドキしているんだよな?  ところで、今は楽しいか?」 ランスが言うと、子供たちはどう反応すればいいのかわからなかったようだ。 「楽しいはずだが、緊張しすぎて麻痺しちまった。  下での戦いを思い出せよ。  みんなは笑顔だったはずだ」 ランスが言うと、子供たちは満面の笑みを見せて、「いくぞっ!!」と口々に気合を入れた。 マックスはランスに信頼の笑みを向けていた。 『ドオオオオオンッ!!』という猛烈な音とともに、獅子と呼ばれる猛獣と人間の混ざっている獣人が現れた。 「おまえがランスかっ!!」 いきなりのことでランスは驚いてしまった。 そして、この獣人はこのダンジョンの一部ではないとすぐに感じた。 この獣人は生きているからだ。 しかも獣人はランスではなく、子供の一人に指を差していた。 「わりい、ランスはオレ…」 指を差されていた子供は、大急ぎでランスの背後に回った。 ほかの子供たちもそれに倣った。 「うっ!  おまえよりも強そうだったからな。  申し訳けなかったな」 これはランスに対する挑発だった。 「そうかもな。  オレ、ほとんど戦ってねえもん。  だがっ!!  ここは本気で戦うっ!!」 ランスはまとっていた高揚感を全て獣人に向け放った。 「なっ?!」と、獣人は言ってその場でよろめいた。 「陣形を取り攻撃開始っ!!」ランスが叫ぶと、子供たちは、「おうっ!!」と高揚感を上げて獣人を囲んで早速攻撃が始まった。 たった30秒ほどでランスは全員を引かせた。 子供たちは素直に指示に従っている。 「くそっ! くそっ!! くっそぉ―――っ!!」 獣人は怒り狂ってランスに飛び掛ってきた。 ランスは今は避けられない。 後ろには子供たちがいる。 ランスは右足を上げて、獣人の腹に前蹴りを繰り出した。 「さあっ 攻撃開始だっ!!」 さらにふらついている獣人に、子供たちの攻撃は容赦なかった。 今度は一分ほど戦い、ランスは全員を引かせた。 すると、獣人は子供のひとりをつかもうとしたのだ。 「おいおい、卑怯者。  人質をとるつもりか?」 「何をしても勝ちゃあいいんだよ」 獣人が言うと、ランスは笑みを浮かべた。 これこそ悪だと考えた。 しかし、勝ち負けで言えば勝つことへの執念とも言えた。 「あんた、もうそろそろ消えそうだぜ?」 「そんなはずっ!!」 ランスはハッタリを言って、獣人を惑わせ、素早く間合いを詰めて回し蹴りを放ち、獣人を地面に叩き付けた。 「さあ、みんな、ラストだっ!!」 ランスの叫びに子供たちはすぐさま反応して、容赦ない激しい攻撃をして、ほぼ無抵抗の獣人を倒し、そのまま消え去った。 盛大なファンファーレが鳴って、数多くのごほうびが空から降ってきた。 子供たちは喜び勇んで、ごほうびを手に取っている。 ランスも何かもらっておかないと子供たちが気を使うと思ったのだが、子供たち全員が手にもっていたごほうびのひとつをランスに差し出した。 「おっ! おお…  みんな、ありがとな」 ランスがごほうびを受け取ると、全員はダンジョンの外に出ていて、万雷の拍手を受けていた。 どうやらこの場所では、ダンジョンの中の様子をうかがえたようだ。 名残惜しいが、ランスは子供たちに別れを告げた。 子供たちはランスに心底から感謝をしていた。 そして、どこに住んでいるのかを聞かれ、「ゼンドラド・セイントだよ」と言うと、「あー、だからすっごく強いんだぁー…」と羨望の眼差しを浴びた。 「いいや、今の戦いはみんなの力だ。  オレひとりだけが戦っていたわけじゃねえだろ?」 それはそうだと、子供たちも思ったようで、胸を張っていた。 ランスとマックスは宙に浮き、子供たちに手を振った。 「勇者様だったっ!!」と子供たちは口々に言い、千切れんばかりに手を振った。 「実はね、この星に勇者たちもこっそりとここで戦っていたんだけどね。  誰もクリアできていなかったんだよ。  さすがに大人数の勇者で攻め入るマネはしなかったんだけどね」 マックスが笑みを浮かべてランスを見て言った。 「いや、いい訓練場でもあるって思うね。  それにやっぱり、仲間は必要だっ!!」 ランスは更なる決意をした。 その候補者のひとりをランスは口にした。 「潜在能力は高いね。  だけど、積極性が乏しいから、強い者に巻かれる。  だからこそ仲間に加えてもいいとボクは思うね。  確実に化けるから」 「だがなぁー…  壊しちまうのもどうだろうって思ってな…  すっげえめんどくせえんだ…」 マックスは真顔でランスを見ている。 「今の、すっげえめんどくせえは、友情のにおいがしたね。  フォローはボクがするから、ランス君の思い通りにして欲しいね。  さらには、その程度で壊れるのなら、  その程度の付き合いだったって言えると思うよ」 「…おっ、おう…」 ランスは肯定はしなかった。 女性の嫉妬心は計り知れない破壊力があるからだ。 このあとふたりはエラルレラ山に戻ってダンジョンを楽しんだ。 さすがにレベルが上がると戦いも楽になり、ランスの、「すっげえめんどくせえ」と言う言葉は鳴りを潜めた。 夕暮れ時が近づいてきたので、ランスはマックスに丁寧に礼を言って、明日も会う約束をした。 ランスはマックスに別れを告げて、城を目指し飛んだ。 城の一階に入ると、あのライオンの獣人をランスは見つけた。 今は背を向けていて、結城と話している最中だった。 邪魔しては悪いと思って、ランスは早速行動に出た。 ランスはセイラがリーダーに見える、仲よし五人組の席の前に立った。 ランスはいきなり切り出すのも反感を喰らうと思ったようで、まずはサヤカを見た。 「…ああ、王子様の熱い視線が私に…」 サヤカは雰囲気をふんだんに盛り込んで演技だとわかるように言った。 「ダフィーをオレの仲間に加えようと思っているんだけど、  サヤカさんはどう思う?」 さすがのサヤカも、ランスのこの質問には尻ごみをしようとしてすぐに下を向いた。 しかし、思い直して、まっすぐにランスを見た。 「私はいいと思います。  ダフィーちゃんのために」 サヤカの言葉にランスはほっと胸をなでおろした。 そしてすぐさまダフィーに視線を移した。 「サヤカさんはああ言ってくれたんだが、ダフィーはどうだ?  かなり厳しい部隊になるが、オレたちについてこられるか?」 ダフィーは本来持っている気弱さの感情そのままにランスを見た。 だが、その両腕は震えていた。 「やってやろうじゃあねえかっ!!」 ダフィーの渾身の悪魔の虚勢だった。 ランスはかなりうれしく思い、ダフィーと握手を交わした。 「本格的な活動は三日後から。  オレの謹慎が解けてからということで頼むよ。  だが、マキシミリアンとマックスさんとの親交も深めておいて欲しいな」 「おうっ!  任せておけっ!!」 ダフィーはあらん限りの虚勢を張って、ランスに言った。 「あ、今からでもいい?」 ダフィーは一変してごく普通に言った。 「ああ、大歓迎する」 ランスはマックスことマキシミリアンとセイルのいる席に歩いて言った。 ダフィーは真顔でセイラたちに少し頭を下げてからランスを追った。 「…まさかまさかのダフィーちゃん…」 カノンがかなり驚いた表情で言った。 「順当だわ。  それに、いい切り出し方法だったわよね。  まずはサヤカちゃんに聞いたこと。  いきなりダフィーちゃんに言っていたら、  今頃ここは大騒動になっていたはずだわ。  さすがね、ランス君」 早百合が落ち着いて声で言った。 「デッダさんのお友達ですものっ!!」 女優ではない、ごく普通の一般人の感情を込めてサヤカが言った。 セイラはわなわなと震えている。 なぜ私に顔を向けなかったのかと。 だがそれをするだけでも大騒動になっていたことは必至。 納得はできたが、何かが気に入らないとセイラは思ったようだ。 「私だったら大騒動させていただろうなぁー…  確実にセイラちゃんにケンカを売っていたと思うわ」 カノンが言うと、「きっとそうよね…」とセイラが力なく言った。 「でもね、気に入らない…」 セイラが言うと、早百合とサヤカがかなり困った顔をした。 「自分が選ばれない。  リーダー的存在のセイラちゃんにあいさつなし。  っていうことでいいの?」 早百合は少し辛らつに言葉を放った。 「その通り…」とセイラは下を向いて言った。 「私だって勇者だから選んで欲しかったわ。  だけど、彼氏持ちはダメ。  私とサヤカちゃんがその該当者。  …実はね、ダフィーちゃんってすっごく残念に思っていたの。  本来の本当の姿を見せない。  それはね、私たちと一緒にいられないって思ったから。  ダフィーちゃんは何かにつけて後ろについてきていただけ。  ずっとそのままだったら成長しなかったって思うの。  だけど、今やっと成長した。  喜ばしいことだと思うの。  それに、最高の人に見出してもらった。  さらには恋よりも戦いを取った。  ダフィーちゃんは大いに化けるわよ」 「…それが、一番悔しいのかも…  当然、私って信用ないから…」 セイラが言うとカノンも同意して、ふたりして頭を垂れた。 「ここからが見返す時じゃないの?  さらに成長して悔しがらせばいいわ」 早百合が言うと、サヤカはかなり困った顔をした。 だが、それはセイラとカノンにとって一番いいことだと思い直して、「明日から心を入れ替えるわっ!!」とサヤカは演技っぽく言い放った。 マックスこと、マキシミリアンは驚いていた。 ―― 血の雨が降るっ! ―― などと思っていたはずだ。 「まさかまったく騒動を起こさないとはな。  恐れ入ったぞ」 マキシミリアンはランスとダフィーを見て言った。 「視線もあわせていないのに食いついて来たらただの狂犬だ。  そうでなくてよかったと思ってんだ。  だがこの先、何かにつけてチャージが厳しくなるかもしんねえけどな。  だがそれも修行だ。  その方が、お互いのためになるかもしれねえ」 マキシミリアンは何度もうなづいた。 「だが、なぜダフィーなんだ?  騒動の種になることは必至だったし…  何か見えたのか?」 マキシミリアンが言うとランスは、「その通り」と真顔で言った。 「ゼンドラドさんと似た人が見えた」 ランスの言葉に、ダフィーもマキシミリアンも息をのんだ。 「あ、説明していい?」 セイルが言うと、「ああ、よかった… 証明できるんだな?」とランスが笑顔で言った。 セイルは笑顔で映像を出した。 「うっ!!  なんか、すっげぇー…  身も凍るって言うか…  どんなに鍛えても全身の皮をはがされそうだ」 映像には一人の男がいた。 肩には鷹が止まっている。 そして、薄刃の刀と呼ばれる武器を両手に握って中段に構え、相手を見据えている。 「父の、鮫島正造よ」 ダフィーがつぶやくように言った。 「男悪魔で、とんでもない剣の達人だよっ!!」 セイルがダフィーの後を受けて補足説明した。 「鮫島さんの想いがこもった子がダフィー。  その実力を十分に発揮して欲しいね」 「うん、それができたらうれしいわ」 ダフィーは自然な笑みで言った。 「やっぱり武器とかは?」 ランスが言うと、ダフィーは首を振った。 「武器使いはハンディが大きいから。  だけどそれを極めたお父さんはすごいっていつも感心してるわ。  突き以外は振りかぶらないと武器の効果がないもん…  振りかぶっている間に攻撃されちゃったらひとたまりもないし、  中心に行けば行くほど、武器の効果が薄れる」 ランスはダフィーの言葉にうなづきながら、映像を見入った。 「相手は御座成功太さん。  一時期の別の宇宙の覇者。  鮫島さんの弟子なんだ」 ―― うっ! 宇宙最強の父の娘っ!! ―― ランスは今更ながらに驚いている。 そしてさらに映像に集中した。 お互いに間合いをかなり気にしている。 もちろん、鮫島が武器を持っている分その間合いは広い。 だがその中に飛び込めば、一瞬にして鮫島は不利となる。 刀を持つ手を封じられてしまうと、確実なる死が待っている。 この戦いにはフェイントはない。 相手をにらみつけ、双方ともに出方を伺っているだけだ。 すると御座成が一瞬にして間合いに入ってきた。 そして、刀を持つ両手に集中して掌底を放った。 その瞬間、鮫島は御座成の背後にいて、刀を御座成の首に当てた。 「あー…  打ち首ってやつだな…  だが、すごい移動方法だよなっ!!」 「えっ?」 ランスの言葉を信じられないといった表情でマキシミリアンとダフィーが見ている。 当然セイルは、鮫島がどんな動きをしたのかは知っている。 だがそれが見えていたランスに、セイルは驚きの顔を向けていた。 「鮫島さんは二手先を読んだ。  一手目は、あの場所に御座成さんが飛びこんでくること。  二手目は掌底が飛んでくる位置。  それさえわかれば、抵抗せずに身を任せる。  鮫島さんは少し浮いてから前方に体重をかけた。  斜め左に向かって宙を切って背後に降り立ち、斬首。  まさに真剣勝負だって思ったぜ。  御座成さんは絶好のチャンスを逃した。  鮫島さんの手をつかめばよかったのに」 ランスが言うと、みんなが息をのんだ。 そしてそれもその通りだと感じたようだ。 「当然この方法は自殺行為だから確実にやらない。  と言うことは、鮫島さんは三手先まで読んでいたことになるよな?  これぞ猛者の戦いだ。  しかも負けない戦いだ」 ここからマキシミリアンが騒ぎ始めた。 セイルにさらにすごい映像がないのかといい始めたのだ。 全てをランスに説明させて納得することを、マキシミリアンの喜びとしたようだ。 セイラがうっとりとした顔をマキシミリアンたちに向けている。 「…仲間に入りたいわぁー…」 「性欲が一番に出てるわよ」 素早くカノンに言われたセイラは、「性欲、なくなって欲しいって今ほど思ったことはないわ」と言った。 「そうね。  私も歩み寄りたいのに、  セイラちゃんとカノンちゃんだけを取り残すことになっちゃうもん…  それはかわいそうだって思っているのよ」 「…早百合ちゃん、ありがと…」とセイラが上目使いで、申し訳なさそうな顔をして早百合を見て言った。 こういった場合、救世主は現れるものだ。 店に、逞しい男が入ってきた。 「やあ、早百合」 「おかえりなさい、あなた」 あなたと呼ばれた男はかなりテレている。 少々騒いでいたランスは、何事かと思い男を見た。 そしてすぐに気づいた。 「大山勇気さんですね?!」ランスが叫ぶと、「やあっ!」と気さくに右手を上げた。 勇気は映像で観ていてランスのことは知っていた。 今回もまた温泉場造りに勤しんでいたようだ。 勇気の行動により、敵対していた国々は一気にその勢いを弱めた。 心地よい温泉は人々の心まで癒やしたのだ。 勇気がここ三年で手がけた温泉は300を越えた。 長い期間、戦の黒い炎が上がっていたセルラ星だが、今は白い煙が至るところから上がっている。 まるで人類は勇気の行いに白旗を上げているように見える。 ランスは勇気のそばに飛んでいって、「おおっ!」と一声叫んだ。 「ああ、マグマ様、驚いてごめんなさい」 ランスはすぐに勇気の肩を見て謝った。 「あはは、別にいいよ!  ボクもぎょっとすることあるもんっ!」 勇気の肩にいる人形のような物体は、基本的には妖怪や神という類のものらしいが少々違う。 この宇宙には妖精というものが多数いる。 どうやらその一種だろうと、結城は診断していた。 マグマの体はまさにマグマ。 とぐろを巻くように赤く黄色い物体がうねっている。 誰もが熱いだろうと思って身を引く。 だが、マグマ自身の修練により、熱さを封印することができたのだ。 「できればオレの部隊に入ってもらいたいのです。  戦いながらも平和にしていく。  勇気さんにはその力があると信じているのです」 「うん、いいよ。  日帰りだったら」 勇気はかなり気さくに簡単に笑顔で言った。 「はい、それはもうっ!  オレたちもそうするつもりですので。  一応メンバーは固定しますが、  どうしてもという時は臨時に追加したりもする予定ですから。  できる限り、誰もがオレの戦いに参加してもらいたいのです」 この話しを聞いて、セイラとカノンが一番喜んだ。 常に同行することは叶わないが、たまにならともに戦える高揚感を得たようだ。 そしてセイラが悪巧みを考えようとした途端、「姉ちゃんは絶対仲間に入れない」といつの間にかいたセイラの隣にいたマキシミリアンがかなり上方からイヤと言うほどの視線を浴びせかけていた。 「…ああ、マックス…  かっこいい…」 マキシミリアンは少しだけ笑って、すぐにランスの右後方に立った。 「ふーん…  マックス君はランス君の手下ということでいいの?」 早百合が少しうらやましそうな顔をして言った。 「そういうことだよ。  オレはランスに従う」 マキシミリアンは笑顔で言った。 「だったらボクも従おう。  と言うよりも、温泉を造っていけばいいんだよね?」 勇気はランスに笑みを向けて言った。 「あはは、はい…  きっとかなり簡単に安全に平和を手に入れられると思いますから。  ですが、オレがまだまだなので、  できれば今のうちからコミュニケーションをと思いました」 「ううん、全然構わないから。  この星の仕事ももう終わりだからね。  この先どうしようかって思っていたんだよ。  少しだけ骨休めさせてもらって、勇者として訓練に勤しもうと思う」 ランスは丁寧に勇気に頭を下げて、作戦本部となっている、いつもの席に勇気を誘った。 「うう…  だんなまで取られちゃった…」 早百合は落ち込んだ振りをして言った。 内心はかなりうれしいといったところだろう。 そして正式なメンバーではないが、ランスと勇気とともに戦う日もあるだろうと思い描いた。 「…私…  私には戦う力がないわ…  でも…  でもっ!!  みんなを見守る力があるわっ!!」 「おおー…」とランスたちがいい、サヤカに拍手を送っている。 「ああ、サヤカさんはオレの初戦を見守ってもらいたいのですけど…」 ランスが言うと、「もちろんだわっ!!」とサヤカは言って、いそいそと作戦本部に出かけて行った。 早百合も便乗してサヤカについていった。 セイラとカノンは、「どうしよう…」と同時に言って顔を見合わせた。 「後ろから見ているのなら誰も何も言わないと思うぞ」 結城が言うと、セイラもカノンも、邪魔をしないように、ランスたちの話しを聞くことにしたようだ。 「で?  どうでした?」 結城はライオンの獣人、キングに顔を向けた。 「ランスとは戦ってねえっ!!」 結城は一瞬驚き、そして少し笑った。 「多少は攻撃してきたでしょ…」 「判定外の攻撃だから記録削除だっ!!」 キングはほえるように言った。 「なるほどね…  だからこそ腹が立つ。  まともに向き合っていれば評価は簡単だ」 「司令官向き」 キングは投げやりに言った。 「だが少数精鋭になるから、ランスも打って出るはず。  その辺りは?」 「教えてやらんっ!!  …あ、ステークをおごってくれたら…」 キングはかなり下手に出て言った。 結城はメリスンに一番うまいステーキを注文をした。 「今日、ランスがしていたのは戦いの準備だ。  始めて会った子供たちを巧みに操り楽しませた。  そして最後の最後に大緊張していた子供たちをいさめ、  戦う意志をよみがえらせた。  誰にもできねえことだと思うぜ」 「卑怯な手や挑発は?」 「簡単に見破られた。  最後の最後に、オレがだまされたっ!!」 キングは心地よさそうに大声で笑った。 「オレのHPは見えねえ。  それを利用して虫の息だといいやがった。  オレがうろたえていた時に、やつの回し蹴りを喰らって倒れた。  後は子供たちがオレに止めを刺したんだよ。  ランスはオレと戦ってねえんだ。  ランスのパーティーとオレが戦ったんだ」 結城は満面の笑みでうなづいている。 「オレも、ランスのパーティーの一員になろうかな」 「別にいいんじゃねえのか?  ただの駒のひとつだからなっ!」 キングははき捨てるように言って、メリスンの持ってきた料理を拝んで受け取った。 … … … … … ランスの謹慎三日目の朝、地獄に通じるトンネルに入って行った。 いつものようにルオウに朝のあいさつをしてからメダルの吸収を始めた。 たった三日間で100万枚以上のメダルを吸収したランスは、にこやかな顔に変わっていた。 しかし、『すっげえめんどくせ』の言葉を発する時は、それなりの顔になる。 メリハリがかなりある、めんどくさい若者になってしまたようだ。 だが、カノンの記憶によればこれは正しいランスだった。 ルオウはランスに微笑みかけて、今日のメダル吸収分を終了した。 「ああ、高揚感ポケットのダメージ率が出るようになっています。  今はゼロです」 ランスが言うと、ルオウは笑顔でうなづいた。 「それ、日々確認した方がいいね。  特にどれほどの速さでどれほど回復するのか。  それを知っていないと無謀な戦いになっちゃうかもしれないからね。  特に高揚感ポケットは風船のようなものだから、  吸収率ごとに確認した方がいいから、すっげえめんどくさいよ」 ルオウが言うと、ランスは大声で笑った。 「オレの決め台詞を取らないでください。  …どうも、ありがとうございました」 ランスは丁寧に頭を下げた。 ルオウは一抹の不安がよぎった。 ランスに爆弾がはじける兆候が見られない。 今のうちに処置していた方がいいと思っているようだ。 可能性がある事象は男女関係ではないかと感じている。 まだ13日目だが、このセルラ星でさまざまな体験をしているはずだ。 避けて通っているのはまさにその部分だけ。 悪は人付き合いについては大いなる悪を放出させ喜ぶ。 カノンと同様に、ランスも恋愛に関しての爆弾が仕掛けられていると感じている。 もちろん頭の回転が速いランスもそのことだけに注意している。 そして戦いに出る前に、相手を決めなければないとも思っているが、後でもいいのではないかとも思っている。 だがそれでは手遅れになるかもしれないと思い、考えあぐねているようだ。 恋愛感情なしで誰かに頼んで試すわけにも行かない。 やはりここは、蓮迦には悪いと思いながら、全てが終わるまで何もしないでおこうと決意したようだ。 さらには、悪に改ざんされたとした部分がカノンよりも少ないのではないかと感じている。 ランスはマックスに相談して、やはり探ってもらおうと決めたようだ。 トンネルを抜け、近くにあるダンジョンに飛んだ。 今日もマックスとエラルレラが待っていた。 三人はあいさつをして、ダンジョンに入ろうとしたが、ランスが呼び止めた。 「オレの悪に改ざんされた部分ですけど…」 「あ、大丈夫大丈夫っ!  ボクが改ざんしておいたからっ!」 「えっ?!」 ランスはかなり驚いてしまった。 そして、「あ、ああ… ありがとうございました…」と迷いながら言った。 「大好きな人を抱いた時、君は狂っていたはずだ。  君が大好きな人が、  こんなハレンチなことをするはずがないといった  永久ループに陥っていたはずなんだよ。  その原因が自分にあることにぼう然としてしまう。  そして、戻れなくなってしまう。  かなりあくどい考えだよね。  でもその時は、蓮迦ちゃんでもセイントさんでも  簡単に修復できたはずだけどね。  どこが改ざんされているのかよくわかるから。  それに、ほかにはないよ。  それがかなり不思議なんだよねぇー…」 「まさか、ですけど…  オレって元々は大悪党だったとか…  改ざんはしたけど、いい人になってしまったとか…」 マックスは大声で笑った。 「だけどね、これだけは困ってしまったなぁー…  それを言えないのが辛いんだよねぇー…」 ランスはかなり戸惑ってしまった。 そして考えた。 ここに来て、今までのことをすべて思い浮かべた。 そしておぼろげながらに、麗子や悦子と同じなのではないのかと察した。 「母ちゃん…」 「はい、そこまでっ!!」 ランスの言葉はマックスによって止められた。 「それを君の試練としようか。  そして、本当に頭の回転が速いよねぇー…  あ、意識すると思うから、  どういった対応を取るのか考えておいた方がいいよ。  準備しておくことはすっごく重要だよ」 「はいっ!  ありがとうございましたっ!!」 ランスは清々しい笑顔でマックスに礼を言った。 「なんだよ…  本当に早いよねっ!!」 マックスは大いに笑った。 ランスはもうすでに計画は立てていたからだ。 ランスは意気揚々と、マックスとエラルレラとともにダンジョンのゲートをくぐった。 … … … … … 充実した一日を終えて、ランスは店のいつもの席に座って書類を書いている。 「なんだそれは…」 マキシミリアンが不思議そうにランスの書いている書類をのぞき込んで読んだ。 「おいおいおい…」 マキシミリアンは絶句した。 「誓約書。  本能の部分だけど、ある程度の効果はある。  あとはオレの気持ちだよなぁー…  どうやって捻じ曲げようか…」 ランスはある予測をした。 カノンはランスを生む願いをした時、カノン自身の亭主として生んだのではないかと。 よって、ランス自身にもその気持ちが沸くはずなのだ。 それをどう捻じ曲げようかと考えているようだ。 もし今世でカノンと初めから恋人であるのであれば、何もすることはなかったのだが、今のランスは運命に縛られたくないと思っている。 よってそれを捻じ曲げる算段をしているのだ。 さらには、カノンに悟られるわけには行かないはずなのだが、こうやって堂々と誓約書を書いている。 マキシミリアンはますは不思議な誓約書だと感じた。 もう一度読んだ時に、誓約書とは関係ないところで、 ランスの計画をおぼろげながら理解できたのだ。 ランスは誓約書を片付けて、結城のそばに行った。 「…オレはカノンと、結婚したくないんですけど…」 「…オレはおまえの敬語を聞きたくないんだがな…」 双方ともに、自分の欲を言ってきた。 当然内緒話だ。 そして結城が驚かないことを知って、ランスは自分の考えが正しいと悟った。 「改ざんして欲しいんですけど。  オレも、カノンも」 「敬語を使うような愚か者の願いは聞き入れられん」 「普通逆だと思いますけど…  オレはオレ自身の普通の言葉で話していますから理解してください」 「…おまえ、本当につまらんやつになったな…」 「オレは今のオレがうれしいんですけど?」 「麗子の刻まれた部分も改ざんした方がいいと思う?」 結城はかなり困った顔をしてランスに聞いた。 「それはダメでしょ…  本人がもう知っているんですから…  道義上賛成しかねます」 結城はその通りだと思い肩を落とした。 「それに、来世があるのならまた縛られる。  それって正しくないと思うんですよねぇー…  だがら来世で麗子さんに会った時に、  都合がよければ改ざんすればいいと思います。  それって、必要がない部分だと思いますから。  転生した者は神の誓いは必要ない」 「わかったよ…」 結城は何もしていない。 「終わりました?」 ランスが言うと結城はひとつうなづいた。 「ああ、簡単だったからな。  だが、好きになる要素はてんこ盛りだぞ?」 「それはそれでいいんです。  そういう性格で生まれたんですから。  それに、オレの場合は  どうあがいても今のカノンを好きになるとは思えませんから」 「うっ!  その通りだった…」 カノンの今の性格は、悪に改ざんされたままだ。 よって、ランスが古い名前を呼び起こされても、カノンを好きになる要素はほとんどないはずなのだ。 「ヤレヤレ助かったぁー…  これでオレらしい生き方ができます。  ありがとうございました」 「多分だがな…  天使服を脱いだ蓮迦はランスの超好みになるはずだよ」 結城は笑顔でランスを見た。 「はい。  それもなんとなくわかっていましたからいいんです」 ランスは席を立って、結城に深々と頭を下げた。 多くの目が、ランスたちを見ていた。 ランスはまっすぐに前だけを見ていたが、カノンに捕まってしまった。 カノンはランスの右手を強く握っていた。 「母ちゃん、何をするんですか」 「何を改ざんしたの?」 ―― 地獄耳… ―― 当然これも、ランスの計算だった。 そして、今結城とした話しを全てみんなに話した。 結城は絶句した。 ランスは大勢の者たちに同意を得ることで正当性を主張しようと企んでいたのだ。 「全て話しました。  オレの考え、間違っているでしょうか?」 麗子だけが、ランスに敵意のある眼を向けていた。 しかし、ランスは麗子を擁護していた事実もある。 麗子の心は揺れ動いていた。 「私が結婚できたんじゃないっ!」 思い出したように、ようやくカノンが騒ぎ始めた。 「オレ、不本意な人と結婚したくなかったんだけど?  だったら母ちゃん、悪に改ざんされた部分、  全部元に戻してもらった方がいいね。  そうすれば、オレも好きになると思う。  イメージとしては、蓮迦」 カノンは、―― ありえない… ―― と思い、顔を伏せた。 「いいたくはないけど、自業自得。  赤ん坊とはいえ、してはダメと言われていたことをした。  自主的にしたことなので責任はカノンにもある。  責めるのなら親を責めてもいいと思う。  私の幸せを返せって言ってな」 ランスが言うと、カノンは首を横に振った。 「娘を不幸にしておいて、自分だけが幸せになろうとする。  オレは反対です」 ランスは言ってから、麗子に軽く頭を下げた。 麗子は勢い込んで立ち上がって、結城のそばまで走って行った。 ランスは我関せずと言う思いで、自分の席に座った。 「残酷だ…  しかし、ランスの言ったことは正しいとオレも感じた。  未来が決まってしまう事象は、消してしまった方がいいと思う」 マキシミリアンは自分に言い聞かせるように言った。 「さて、明日からの予定なんだけど…」 ランスは何事もなかったように言うと、セイルがその内容をモニターに出した。 「おいおい…」 マキシミリアンがかなり困った顔をしてランスを見た。 朝から晩までランスは組み手をする予定にしていた。 当然、高揚感ポケットは使わない。 「オレはオレ自身を強くしたいんだ。  協力して欲しい」 「ダメだ、自分勝手過ぎる。  訓練の最後の5分、いや、3分ずつでいいからみんなのために組み手をしろ。  ランスが持っている能力を全て使ってだ。  だったら百歩譲って平等だな」 マキシミリアンが言うと、ダフィーもセイルも勇気も笑顔でうなづいた。 「わかったよ…  すっげえめんどくせ…」 ランスが言うと、マックスは大声で笑い転げた。 これはランスのクセなので、理性はまったく働かない。 意識していない時にでてしまうと、古い神のランスが顔をのぞかせるのだ。 ~ ~ ~ ~ ~ 宇宙開放勇者軍はランス・セイント捜索隊があっけなく敵の助っ人にコテンパンにのめされた情報を知り、厳戒態勢を取る方針を固めた。 本部回りに全ての勇者、能力者を配置したのだ。 大宇宙全てから召集しているので、その数なんと3000名。 ピンポイントでここを襲撃されたとしてもびくともしない布陣だ。 いつ襲ってくるのかはわからないが、用心に越したことはない。 この布陣を敷くことで、各地で暴動が起き始めるはずだが、それは些細なことと嘯いている。 本部が破壊されることこそが重大なのだ。 総督のミューラ・ダインは、このようなことを威厳をもって演説を終えた。 ヤレヤレ疲れたと、自室に戻り、女の群れにダイブした。 「オレ、負けちまうと思う?」 もちろん返ってくる言葉は、「冗談でもありませんわ」だった。 「オレもそう思う」 ミューラは言って、自らから服を脱いできた女を抱きしめた。 ミューラは、「今日もとろけそうだね」と笑顔で言った。 その顔には、異様な黒いマスクが張り憑いていた。 ~ ~ ~ ~ ~ ランスは訓練場で、能力を使わず激しい組み手ばかりを始めた。 そして貯めずにまとっていた高揚感を細田の造った箱に、大絶叫とともに吐き出した。 「かなり溜まるよね…  これで総攻撃を仕掛けるのも面白いよね。  みんな、いい人になっちゃうし」 「あはは、それ、採用しますよっ!」 細田の言葉に、ランスは上機嫌で答えた。 「ああ、そうだ。  地獄にね、ランス君を待っている人がいるよ。  ボクではダメなんだそうだ」 細田の言葉にランスは耳を疑った。 地獄に人がいるわけがない。 そして、人がいるならばひとりしかいない。 「予定、変更しようかなぁー…  今日始めたばっかだけど…」 「ボクは強靭なロボットを造ってくるよ。  ちょっとだけ時間をもらえないかな?」 「あ、はあ、それはいいんですけど…」 マキシミリアンのようなロボットだと、製作にはひと月ほどはかかるだろうとランスは考えた。 「30分で戻ってくるからっ!」と細田は言い残して、プールのある訓練場に走って行った。 ―― 超強靭なロボット簡単過ぎっ!! ―― ランスにいいようのない高揚感が途轍もなく沸いたので、また箱に頭を突っ込んで、「負けねえぞっ!!!」と、大声で叫んだ。 30分後、ランスと細田一号、そしてランスの仲間たちは地獄に足を踏み入れた。 「あ、みんなはかなり離れていた方がいいよ。  ボクもくらくらしちゃたからね。  機械じゃなかったら悪に取り込まれていたと思うほど強力だから。  ランス君はメンタルを安定させた方がいいよ。  つけ込まれるかもしれないから」 「オッスッ!!」 細田一号の言葉に、ランスは気合を入れて、そして抜いた。 入れ過ぎると体力が持たないという現実と、動きが硬くなるという事実もつかんでいた。 「ああ、そういうのって、源次郎さんや覇王君もよくやってるね。  みんなも真似した方がいいと思うよ」 細田が言うと、半数ほどは何をすればいいのかよくわからなかったようだ。 「これも修練だ。  理解できた者だけがすればいい」 マキシミリアンが高揚感をまとったまま、ランスのマネをした。 ランスと細田を先頭に、ランスが行ったことのない、左の地獄を進んでいった。 モニターを見ると、この辺り10キロ地点にはまったく何もいない。 これはおかしいと、ランスは感じた。 いつもなら小さなコロニーのひとつやふたつはあるものなのだ。 そして、ついにその理由がわかった。 「悪の出入り口?  だけど、反応がかなり大きい…」 「マックス君が体験したもの。  正しい心の悪」 細田一号が矛盾したことを言った。 本当の意味がわかる者はマキシミリアンだけだ。 「捕らえてロボットに入れ込んで仲間にする。  さらに本体が修行を積めば自然に本体に帰る」 マキシミリアンが穏やかに言った。 「違うぞ」 ランスがマキシミリアンを見て行った。 「友達になって入ってもらう、が正解」 「そうだ。  そうだったな、オレも…」 マキシミリアンは胸を張った。 同行者一同もランスとマキシミリアンを見て胸を張っていた。
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