金色の竜フルック

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真夏の日差しが照り付けてもとけることのないその池の分厚い氷の底には、金色の竜フルックが眠っている。歴代のいたずらっこたちは、氷を割ってフルックを起こそうとしてきたけど、てんでダメ。火を燃やしてみても、石を打ちつけてみても、氷はびくともしない。  フルックを目覚めさせることができたのは、後にも先にもたったひとり。 ちびのラチだけ。    その年の春一番は、見知らぬ男を連れてきた。  雪がまだ残る山道を、カブトムシみたいに黒い車でやってきたそいつの話は、まるで催眠術みたいに人をその気にさせる力があった。 「この村に眠っている伝説の竜が、村に栄光をもたらすでしょう」  大人たちはすぐにその気になってしまった。男は、最初からフルックのことを知っていたんだ。いったいどうやって村の秘密であるフルックのことを知ったのか……それは今でもわからない。  男の言いなりになった村長を先頭に、大人たちは男を連れてフルックのところへ行った。 「これは素晴らしい、想像以上だ」 みんなは、フルックを見に人が遠くの街からたくさんの人が来るようにと、山を切り開く計画を立て始めたんだ。男の手並みは素晴らしかった。 ただ一つ、あいつの間違いは、僕ら子供を相手にしなかったこと。  あの男は怪しいって、僕らは最初からわかっていた。村の守り神であるフルックを見世物にするなんて、許されるはずがない。だけど、どうしたらいい……?みんなで集まって考えたけど、いい方法はなかなか浮かばなかった。 「池の周りにとげとげ草で壁をつくったら」 「あの男をお酒で酔わせて車に押し込んで町へ連れて帰ろう」  みんなの意見は堂々巡り。そんなとき、誰が言ったんだったか……。 「フルックを起こして追い払ってもらおう」  その一言にみんな飛びついた。でも、どうやって?わからないけどやってみるしかない。  氷の上で一斉に飛び跳ねる。ラッパを吹き鳴らす。ドリルで氷に穴をあけてみる。  思いつく限りの方法を試したけど、分厚い氷はびくともしないし、フルックは相変わらずすやすや寝息を立てるばかり。  みんなが疲れてしゃがみこんでしまったときだ。
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