金色の竜フルック

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ちびのラチのやつが、一人フルックの耳の真上に立って、優しい声で歌い始めた。ラチの歌は特別なんだ。泣いている赤ん坊だってすぐに眠ってしまう……もちろんその時の僕らだって。  みんながうとうとし始めたころ、不意に体の下の氷がぐらりと揺れた。あの分厚い氷にひびがはいって今にも水があふれだしそうになっているんだ。  みんなびっくりして、岸まで大慌て。気付いた時には、ラチがたった1人で、かけらになった氷の上に取り残されていたんだ。僕らの慌てぶりをよそに、相変わらず優しい声で歌い続けてた。  僕らの見ている前で、ラチの体はぐんぐんと上に持ち上がっていった。そして足元から金色に輝き始めた。 「フルックだ……」  だいだい色の夕陽がうろこにあたって、あたりは金色の海にそまった。ながい首を延ばし、鼻を空につきあげて、フルックは大きく伸びをした。どの木よりも太くて長い胴体、口元には馬のしっぽみたいに太いひげが生えていた。ちょこんと氷の上にのせた足の先には、鋭い爪が生えている。うっすらとひらいた瞼の奥には、深い緑色の目玉がのぞいていた。そのとがった鼻の頭に、自分がどこにいるか気が付いていないみたいに、ラチはまだ歌い続けていた。擦りむいた膝小僧もはねた髪も、みんな金色に輝いて、その声から光がさしているようにさえ見えた。  気持ちよさそうに歌を聞いていたフルックが、目を閉じたと思ったら、ゆらゆらと大きく揺れだして、あっという間もなくラチはみんなの足元の一番やわらかい土の上に上手にしりもちをついた。  フルックは、空に向かって一度大きく息を吐くと、さっきまでと同じように、丸く池の底に沈んで静かに寝息を立て始めたんだ。  
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