雪融けの季節

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 わたしが彼と出会ったのは、地元で毎年行われている雪像フェスティバルの会場だった。  札幌の雪まつりなどとは比べものにならないくらい小規模なものであるが、まあ、似たような感じのお祭りである。  それでも、一応、プロやセミプロのアーティストの人達が作っているので、サイズは大人の等身大がせいぜい雪像のレベルはそれなりに高い。  会場の公園にはそんな雪像が大小三十余りそこここに立ち並び、親子連れやカップル、学生のグループなどがわいわい騒ぎながら、思った以上に盛り上がりを見せていた。  その喧騒に紛れ込み、先日、グランドスラムを制して世界ランキング一位になった某女性テニスプレーヤーや、成果はともかくも歴史的会談を果たした某国家元首二人が握手する姿など、何かと話題性のあるモデルを模った雪像をぼんやりと眺めながら進んでゆく……。  少し灰色がかった雪の塊をやや角ばった線で刻み込んだそれは、モデルとなっている本人に似ているようでもあり、でもよくよく見てみれば似ていないようである。  白い雪で作られたそれは刻まれた陰影だけの表現なので、正直、似ているかどうかの判断は難しいところだ。  だが、雪像の出来が良かろうが悪かろうが、わたしにとってはどうでもいいことだ。 わたしの瞳に雪像は確かに映っていたが、それらの無機質な雪の塊に対して、わたしはなんら感慨も抱いてはいなかった。  この一週間前、わたしは失恋を経験していた……。  わたしをフったカレ……いや元カレは、合コンで知り合った名門大学に通う金持ちのボンボンのバンドマンで、暑苦しいくらいにわたしへの愛を表現し、女の子の気持ちもよくわかっていて、いつもわたしを楽しませてくれる人だった。  ……でも、それは裏を返せば女慣れしているということでもあり、無類の女好きで浮気性だった。  浮気に気づいたわたしが問い詰めると、最初の内こそいろいろ言い訳をしていたものの、最後には開き直って潔いくらいにあっさりと浮気を認め、「嫌ならもうおまえとはつきあえない」と、むしろわたしの方がブラれてしまった……。  結局、私は彼の遊び相手の一人に過ぎなかったのである。  それから一週間、取っている大学の講義も休むと家に引きこもり、心配してくれる友人達からのメールや電話も一切無視して、わたしは独りずっと泣いて過ごした。
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