五丈原

3/7
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
 魏延が鍛えに鍛え上げた直属の軍は、間違いなくこの天下で最強だという自信もある。 「父上、兵の選抜を追えました。いつでも出撃できます」  息子の、魏豊(ぎほう)が馬に乗って駆けてくる。字は国鎮(こくちん)と付けた。劉備の築いたこの国を守る、そういった人材となれるよう、願いを込めた。  歳は、二十を過ぎたばかりだが、軍人として良く育ってきたと思えた。体格も大きい。ただ、戦場での判断が些か浅いと思えるところがあったが、こればかりは若いが故に仕方の無いことだと思うようにした。 「兵数は」 「父上の仰せの通り、若い騎兵を百騎」 「馬を軽く走らせておけ。俺もすぐに向かう」 「御意」  魏豊は素早く離れていく。その後ろ姿をしばらく眺め、魏延は薙刀を握る。そして直属の騎兵を、三十騎集めた。  今回の北伐では、諸葛亮に文句を言うのは止めていた。文官には、文官なりの戦があると、気づいたからである。そして、任せてみようとも思えた。  諸葛亮が見据えていたのは魏軍を蹴散らす事ではなく、過去の全ての北伐において行く手を遮ってきた「司馬懿」一人を、潰す事であった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!