五丈原

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 此度で、五度目の北伐であった。  今までこれといった大きな戦果は挙げられていない。ただ、大きな損失も無い。如何にも文官である諸葛亮らしい結果と言えるだろう。  しかし、これでは何時まで経っても平行線である。死を覚悟しない戦で勝ちを望もうとするのは、到底無理な話だと思った。傲慢ですらある。  軍事においては、魏延の方が圧倒的に経験値が高かった。それに、あの劉備に才を見出されて大抜擢を受けたのだ、将としても卓越した才能を持っているのはこれまでの実績で証明されている。  漢中と、魏の一大軍事拠点である長安の距離はさほど遠くない。魏延は軍を二手に分けて、一気に長安を急襲する戦法を取る様に何度も諸葛亮に進言していたが、それはことごとく退けられている。いずれも、危険が大きいというのが理由であった。  今まで防衛に出てきた魏軍の戦術といえば、亀の様に拠点に籠って守りを固め、こちらの兵糧切れを待つといったものである。互いに小競り合いを繰り返し、退却する。そんな戦ばかりであった。  守って出てこないなら、無視すればいい。無視して長安を奪ってしまえばいいのだ。危険が大きくとも、それ以上に勝算もあった。
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