五丈原

4/7
14人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
 今までの戦は、司馬懿を研究し尽くす為のものであると言っても過言では無い。そして着実に、司馬懿一人に向けて諸葛亮が流した毒は、魏軍を蝕んできている。  諸葛亮が得意とする戦法は、こちらに仕掛けた罠へ、敵を誘き寄せる戦である。敵が攻め込んでくれば、後は思い描いた通りに丁寧に罠に嵌めていく、戦というより感覚的には作業に近いものである。ただ、攻め込んでこなければ、いくら罠を仕掛けたところで無駄だった。諸葛亮の戦は、攻めに向いてない。  だからこその、毒であった。  魏軍に対しての執拗な挑発。司馬懿個人にも、諸葛亮は挑発文を度々も送り付けていた。女物の衣服を添えて「部屋に籠ってばかりいる軍の指揮官は女に違いないでしょうから、貴方にお似合いの娼婦の衣装を送ります」という文書を送るなど、何とも憎い小細工である。更には魏軍後方の兵站で、蜀軍の少数の将兵が兵糧を焼き払ったりもしていた。  そして何より魏軍を苛立たせたのが、蜀軍が魏の土地で屯田を始めたことであった。  攻めて来なければ、永遠にここに居座ってやるぞと、諸葛亮は徹底的に魏軍を虚仮にしたのだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!