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扉を開くと、身を焦がす様な熱風に襲われた。
あぁ、これが、英雄。
青年の頃から憧れ続けたその人が、今、自分の目の前に座っていた。
「そう固くならずとも良い、楽にせよ、魏延」
名を呼ばれて、体の芯が燃えるように熱くなった。
これが、戦に生き、戦で大きくなった、一代の巨人の放つ覇気。
劉備。三分された広い中華のうちのその一つ、益州の地を手中に収めた英雄の名である。
例え万の敵に向かい合っても恐れはしない魏延の拳だが、今はじっとりと汗に濡れている。
小さな一室。身に着ける軽い武具と、一対の剣だけが置かれている、殺風景な部屋であった。
「この度は、ただの部隊長に過ぎなかった自分を、牙門将軍にまで引き上げていただき、大変感謝しております」
「むしろその武芸の腕をもってして、今まで部隊長ごときに任じていた我の不明を恥じるばかりよ。この益州の地を手に入れる為の数々の戦、お主の武功は豪傑を誇る将軍達にも比肩する程であった。だが、魏延よ、この牙門将ですらお前には狭苦しいであろうな」
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