憧れ

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 魏延は荊州という、この乱世において極めて平穏な土地で生まれ育った。  戦といえば、話で伝えられてきたものを聞くのみで、それが幼い頃から何よりの楽しみであった。各地の戦乱から逃れる様に、荊州には人が集まってくる。話を聞く機会も多かったのだ。  曹操、袁紹、袁術、孫堅、孫策、呂布、様々な群雄の戦模様を聞き、心を躍らせた。そして何よりも興味を引いたのは、ただ、戦のみに明け暮れる「劉備」率いる流浪の軍であった。  何処かに拠って立ち、基盤を持とうとはせず、僅かな兵力を率いて各地を転戦し、鮮烈な戦を繰り広げる。例え戦に負けようとも、その武功は見る人の記憶に必ず焼き付く。中でも劉備配下の猛将、関羽、張飛の勇猛ぶりは凄まじく、男として生まれた以上は、かくあるべきだと思ったほどだ。  そんな自分が、夢に見る程に憧れたその軍において、将となった。  夢は、憧れた英雄、劉備を天下の覇者に成らしめること。関羽、張飛といった猛将の中の猛将をも超える武人として、歴史に名を刻むこと。  漢中を「魏」より奪い、魏延はその漢中の守将として大抜擢された。その時に、ここからだと、心で吼えた。
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